このような背景を念頭に置くと、CEOたちの姿勢が理解しやすくなる。CEOたちの対応は、大きく3つに分かれる。まず、かなり多くのCEOは、ベビーブーム世代の退職によって生じた欠員を埋めるために、新規採用を継続している。このような対応は、医療、保育、高齢者介護、ホテル、レストラン、旅行など、対人サービスが求められる業種で特に目立つ。

 次に、5社に1社のCEOは、レイオフを行う可能性を示唆している。このような姿勢は、製造、テクノロジー、金融、住宅など、コロナ禍で業績を伸ばした企業でよく見られる。この種の企業は、金利が上昇していること、そして消費者がサービスに注ぎ込む金額を相対的に増やしつつあることを受けて、自社の事業の規模を適正水準に調整する必要に迫られているのだ。テクノロジー、金融、不動産、建設、運輸、倉庫など、幅広い業種の企業がこれに該当する。

 しかし、ほとんどのCEOは、もう一つのグループに分類できる。景気後退が短期間で軽度なものになると予測しているので、自社の働き手の数を変更しない方針なのだ。いま解雇を行い、後になってもっと高いコストで再び採用するより、働き手を抱え込んでおきたいと考えているのだ。

 このような傾向は、景気後退が近づいていると認識しつつも、高いスキルを持った働き手を確保することの難しさを実感しているCEOが多いことの表れといえる。1年前に比べれば人材採用の難しさは和らいでいるとはいえ、ほとんどの企業は、優れた働き手を採用することに少なくともある程度の難しさを感じているのだ。

 CEOたちは、働き手に資金を投入すること(要するに、給料の引き上げと各種手当の充実を行うこと)こそ、人材の確保および保持という長期的な課題への主たる対応策だと考えている。しかし、給料の引き上げと手当の充実を際限なく続けることは不可能だ。そこで、多くの企業は、自動化(オートメーション)とデジタル・トランスフォーメーションを推進することにより、人手不足を埋め合わせようとしている。

 景気後退と人材確保に関するCEOたちの考えていることは、理にかなっているといえるのか。

 この問いに対する答えは、イエスだ。実際、消費者も向こう6カ月で景気後退が始まると恐れているが、コンファレンス・ボードの「消費者信頼感指数」によれば、労働市場の状況に関して、消費者は比較的楽観的な予測をしている。加えて、コンファレンス・ボードの「米国景気先行指数」によると、ほどなく米国経済が景気後退に突入し、それが1年間続く可能性が高いが、その一方で、差し当たりの景気に関する指数は依然として強力である。これは、労働市場関連の要素が強力だからだ。

 頑固なインフレが続く一方で、金融市場が年内のFRBによる利下げを織り込んで動いているのは、投資家たちが景気後退を予測していることを意味している。しかし、そうした金融緩和は、比較的小規模なものになるだろう。労働市場の売り手優位の状況が続く結果、景気後退が短期間で軽度なものに留まると予測できる。


"CEOs Are Predicting a Mild Recession in the U.S.," HBR.org, June 01, 2023.