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AIは「問う力」の強化に役立つ
ほんの数年前まで、企業による「人工知能」(本稿で後述する広義の人工知能)への取り組みは概して抽象的であり、いずれ対処せざるをえない「仕事の未来」の問題として扱われてきた。
現在では、世界中の企業の半分以上がAI(一般的な人工知能)
そして、チャットGPTなどの生成AIツールがビジネスリーダーに迫るのは、AIが自社の事業のどの部分でどう役立つのかを自問することである。
それでも大半の企業は、
しかし、このテクノロジーは、はるかに多くのことができる。
問いかけを伴う「ソフト」なスキル──たとえばクリティカルシンキング、イノベーション、アクティブラーニング、複雑な問題解決、創造性、独創性、自発性などとAIを組み合わせれば、私たちはますます複雑化する世界に対する理解を深め、より抽象的な問いを立て、焦点を「識別」から「概念化」へと移すことが可能になるのだ。
筆者らが研究および企業幹部らとのワークショップを通じて気づいたのは、製品デザイン、プロセス効率化、プロンプトエンジニアリングなど幅広い分野でAIを知識労働の協力者として扱えば、企業が得るものは大きいということである。こうした形でAIと手を組むことで、人々はより賢明な問いを立てやすくなり、結果的により優れた問題解決者、あるいはブレークスルーを起こすイノベーターになれる。
また私たちは、チャットGPTのような、
専門家は、ソフトウェアエンジニアが開発段階で賢明な問いを立てる必要性を認識しているが(バイアスや根拠なき仮定を減らすため)、AIと問いをめぐる、もう一つの関係性についてはあまり言及していない。すなわち、人々が仕事において、より探求的でクリエイティブな問題解決者になれるよう助けるAIの潜在能力についてである。
筆者らはこの見落としを是正するために、さまざまな国と業界のテクノロジー志向のビジネスリーダーらとデザイン思考のセッションを行い、その後も綿密に話し合った。
加えて、マサチューセッツ工科大学(MIT)での筆者らのエグゼクティブ教育プログラムに30カ国以上から参加した、約200名のリーダーらにもアンケート調査を実施。各自の組織において、問いかけのパターンと、イノベーションに関する行動と結果に、「人工知能」がどのように影響を及ぼしたのかを探った(この調査では「人工知能」を幅広く定義し、機械学習、深層学習、ロボティクス、および最近爆発的に普及している生成AIを含むものとした)。
その結果、リーダーは問いを立てる作業の中で、AIの能力を活用して自分(およびチーム)の「問う力」を強化するために、異なりつつも関連する2つの道筋をたどっていることが判明した。
第1の道筋では、問いのリズムとパターンを変えるために、このテクノロジーを使うことができる。AIは問いの速度、問いの多様性、問いの新規性を高めるのだ。筆者らの継続中の調査では、AIはこの3つすべてを著しく高めうることが示されている。
第2の道筋では、AIによって人々の仕事の状況と環境を変えることで、変化を誘発する問い──筆者らの言う「触媒的な」問い──の発生を促すことができる。これによりリーダーは居心地のよい場所から押し出され、「知的に間違っている」「感情的に不快」「
それぞれの道筋が、画期的なアイデアにどのようにつながるのかを考えてみよう。
速度、多様性、新規性を高める
企業がAIと手を組んで、問いの速度と多様性、
問いの速度
アルゴリズムはリーダーが投げかける問いに即座に答えを出せるため、リーダーはより多く、より頻繁に問いかけることができる。筆者らの調査では、回答者の79%はAIを通じて問いを増やし、18%は量が変わらず、3%は問いを減らしていた。
サイバーセキュリティ会社のサイバーリーズンでは、
前CEOのリオ・ディブによると、
当然ながら、矢継ぎ早に問いを生む目的でAIを使うことにはリスクもある。その一つは、人々は実行可能な方向性を見出そうとしないまま、
もう一つのリスクとして、多くの問いは、
問いの多様性
AIは、大量のデータにおけるパターンと相関関係を明らかにするうえで役立つ。人間は、AIなしではこれらの相関を容易に見逃してしまう。このツールを自由に使えると知っているリーダーは、より多岐にわたる問いを立て、AIがなければ考えもしなかった新しいアイデアを探求できるようになる。筆者らの調査では、AIとのやり取りによって従来とは異なる問いかけをするようになった回答者は全体の94%に上った。
次の例を考えてみよう。コルゲート・パルモリーブで予測分析ディレクターを務めるクリ・パパスによれば、彼のチームはAIを活用して、炭がいかにして消費財において広く使われる原料となったのかを理解することで、「次なる炭を見つける」ことができたという。
同社のアルゴリズムは、初期のデータ調査に基づいて数千の問いを生成し、答えを出した。これにより、20年前に韓国で炭のスクラブが登場してから、米国で洗顔料に炭が使われ始め、やがて世界中でさまざまな製品に使われるようになるまでの、数十年にわたる軌跡を描き出した。
AIから生成されたデータをもとに、チームは予想外の場所に潜在しうる未来のトレンドについて、問いを数百も投げかけ、クリエイティブな思考を喚起することができた。
「カテゴリーを横断して過去を振り返り、ヘアケアからスキンケア、口腔ケアへと、トレンドがカテゴリー間でどのように移行するのかを見極めようとしています」と、パパスは語った。「これを実行するだけで、時代を10年以上先取りできます」