問いの新規性
AIはまた、革新的な問いの代表格ともいえる、斬新で「
自分一人で扱えるよりもはるかに多くのデータを、テクノロジーによってふるいにかけて点と点をつなぐことができるとわかれば、より大胆な問いかけが可能になる。もし自分一人で答え出さなければならない場合は、その種の問いかけをけっしてしないだろう。なぜなら、それらは人間の脳では扱いきれなかったり、染み付いた認知バイアスと相容れなかったりするからだ。
カテゴリーを飛び越える問いは、AIシステムと接するたびに生まれるわけではない。だが、その可能性に対してオープンになり、自由な探究を認めれば、この種の問いは生まれやすくなる。
医療イノベーターでインキューブ・ラボの創業者であるミール・イムランは、その利点を筆者らに次のように説明した。「AIは非常に曖昧な変数を取り入れて、新たな関係性をつくることができます。それらの隠れた関係性が組み合わさると、問いを立て直して破壊的なイノベーションを生むきっかけとなるのです」
つまり、AIが生む新しい関係性は、新しい問いを誘発し、他者がまだ想像すらしていない解決策の探求につながる可能性があるのだ。イムランのチームが最近開発した、外からの注射に代わって体内で薬を投与するロボット錠剤も、その一例である。
よりよい問いが生まれる状況をつくる
AIは、リーダーを通常運転モードから脱却させ、問いが導くところに身を任せるよう強制することができる。これはよいことだ。問いの速度、多様性、そして特に新規性が高まることで、自分が知的に間違っていて、感情的に不快で、静かな態度であることを認識しやすくなる。筆者らの発見によれば、まさにこうした状況でこそ、革新的な方向性の問いが生まれる傾向がある。
ジェフ・ウィルケは、アマゾン・ドットコムのワールドワイド・コンシューマー部門の元CEOで、現在はリビルド・マニュファクチャリングの共同創業者である。彼はテック企業の幹部としての日々の仕事においてだけでなく、キャリア全体を通じて、これらの不都合な状況を歓迎し、役割が変わる中で継続的にメンタルモデルを修正している。
筆者らとの対話で彼はこう語った。「もしあなたが、自分の知らない物事を探求し、間違える勇気、無知になる勇気を持ち、より多くの質問をしなければならず、人前で恥をかく覚悟があれば、より完全なメンタルモデルが身につくと思います。そのモデルは生涯にわたって役立つでしょう」
ただし、AIと手を組むことには一つ問題がある。研究によれば、人間がAIと心地よく協働するのは難しい場合がある。なぜなら、AIの超人的な能力と予測不可能な動きは、人間がAIを十分に信頼して緊密に関わることを妨げる可能性があるからだ。これは、筆者らが組織で観察したこと、およびリーダーと話す中で学んだことと一致する。
テクノロジーへの不信感は、クリエイティブな問いにはまったくつながらない。したがって、不信感をなくす方法を探し、ブレークスルー思考と問題解決のための状況づくりをAIのみに任せるのはやめるべきだ。
ほかにどのような方法でそうした状況を生み出せるか、考えてみよう。問題解決のプロセスの中で、互いに無関係に思える物事を組み合わせる余地がどこかにないだろうか。それらの機会をどう使えば、従業員を意図的に不安定な状態にさせ、彼らが頭では正しいとわかっていること、感情的に心地よいこと、慣れ親しんでいる言葉や行動を「超越」した問いを引き出せるだろうか。
同時に、従業員が多岐にわたる問いを立て、そこから学ぶためにAIをより効果的に使い、最終的によりよい問いかけができるようにするために、心理的安全性をどのように醸成できるだろうか。心理的安全性が存在する場合、従業員は反発することなく「私は間違っています」「私は不愉快な思いです」「私はまだ考え中です」と表明することができる。
リーダーとチームは、
人間の強みでAIの弱みを軽減する
「人工知能」はいくつかの部分で人間を超えているかもしれないが、弱みもある。まず、このテクノロジーは根本的に、過去のデータで訓練されているため過去志向である。未来は過去とはまったく違ったものになるかもしれない。そのうえ、間違いやその他の欠陥がある訓練データ(内在するバイアスによって歪んでいるデータなど)は、不適切な結果を生み出す。
リーダーとチームが、AIをクリエイティブ思考のパートナーとして扱うならば、このような限界に対処しなくてはならない。その方法として、人間の脳と機械が補完し合うことに焦点を当てるとよい。
AIは、私たちが処理できるデータの量を増やし、対処可能な複雑性のレベルを高めてくれる。一方、私たちの脳は還元的に機能し、アイデアを生み出してから、それを他者に説明する役割を担う。
機械には想像力と倫理的判断力が欠けているが、組織内で問題解決を行うために人間が発する問いの速度、多様性、新規性を、AIは高めてくれる。このため私たちは、想像力と倫理的判断力という不可欠なスキルを活用できる。
こうした違いがあってこそ、実りある協働につながる。違いを最大限に活かすことで、人間の仕事に対するAIの脅威を減らすことができるのだ。
人間とAIが互いの強みを活かせば、「未知の未知」を「既知の未知」へと変え、ブレークスルー思考の扉を開くことができる。この論理的飛躍と概念的飛躍は、人間とAIのどちらが欠けても成しえない。
この可能性を活かすには、リーダーは「人工知能」を新たな視点で見る必要がある。コスト削減や効率性や自動化よりも、インスピレーション、想像力、イノベーションを重視するのだ。
そして、大胆な問いかけを後押しし、動機付け、報いる文化を築くことも求められる。必ずしも答えを知っている必要はない。
"AI Can Help You Ask Better Questions - and Solve Bigger Problems," HBR.org, May 26, 2023.