すべての担当者をトッププレーヤーにする
現場の個々の担当者の生産性を高めるために、企業は多くの戦略を駆使することができる。その一つが、データに基づいた「セールスプレイ」を構築することだ。ターゲットアカウントに対するセールスとマーケティングが連携して活動することで、担当者が最も価値の高い機会に集中できるようにする。その必要に応じた営業資料やトラッキングもこの中に含まれる。
一貫したトレーニングとコーチングも、新人のランプアップ期間(高い生産性が発揮できるようになるまでの期間)を短縮し、ベテランのパフォーマンスを向上させるのに役立つ。ベイン・アンド・カンパニーの調査によると、トップクラスの業績の担当者は業績が低い担当者よりも、マネジャーと頻繁かつ質の高い交流をしている。毎週1対1のセッションを実施したり、定期的なパイプラインレビューを行ったりしている。
営業・マーケティングサポートを効率化する
無駄のないサポートチームを運営することで、大幅なコスト削減をしたり、営業経費を顧客対応の営業活動に充てたりすることができる。サポートへの支出を最適化するには、複雑なプロセスを簡素化する適切なデジタルツールや自動化ツールを見つける必要がある。さらに、(サポートチームが設定する)個々の担当者のノルマの精度を向上させる、組織内のスパンやレイヤーを減らす、販売以外の役割やノルマを担わない役割を精査するといった戦略もある。
生産性の高い企業は、これらの各カテゴリーの戦略を体系的に実行する。あるコンピュータアプリケーションのセキュリティプロバイダーのケースを考えてみよう。同社は、年間収益成長率が約40%から20%未満に鈍化した。その際、どのようにカバレッジを改善したのかという事例である。まず顧客セグメントの数を増やし、各セグメントに合わせた営業活動を実施した。続いて、販売可能な市場や、各顧客の購買傾向、顧客の特性に基づいて、販売地域を再構築したのである。こうした取り組みによって、同社は4年間のうち3年間で商業生産性を10%以上向上させることができた。
他の企業も、商業生産性を高めるため、同様の取り組みに着手している。ある多国籍食品包装会社は、複数の戦略を通して市場進出モデルの変更に乗り出した。機会やサービスのニーズに基づいて顧客を改めて分割し、インサイドセールスやeコマースなど低コストの市場参入ルートの利用を増やし、専門家のリソースをグローバルにプールする、といった手法を取ったのである。
計画し、反復する
生産性の高い企業を際立たせているのは、実績のある一連の手法を継続的に見直すことに加え、計画的かつ反復可能なアプローチで変化を続けていることだ。そうした企業のアプローチには、いくつかの組織的側面がある。
第1に、生産性の高い企業は商業生産性を専門に担う責任者を任命する。この経営幹部は多くの場合、最高収益責任者(CRO)、CFO、COOの直属で、専門のプログラムリソースを持つ。スタッフは、実行する戦術のバックログを構築し、それぞれの戦術の進捗を促進し、営業とマーケティングの各レベルにおけるプロセスと活動の変化を支援する。
また、長年高い生産性を保ってきた企業は、商業生産性の目標を年次計画や複数年計画に結びつけ、その取り組みを営業グループ以外にも広げている。そのためには、CROとCFO、およびCOOは、生産性の問題を明確にするとともに、定期的にコミュニケーションを取る必要がある。CFOが設定する売上高と営業・マーケティングコストの目標は、営業・マーケティング組織の生産性向上の見込みを反映させ、それを達成するための明確な戦略を伴うものでなければならない。また、複数年にわたる商業生産性のロードマップは、企業が必要なテクノロジー投資を計画できるように、ITのロードマップと連動していることが必須である。
最後に、成熟したコマーシャルオペレーションチームは、営業・マーケティング能力のモデル化、財務グループとのコミュニケーション、継続的に見直される市場進出計画の作成に不可欠だ。このオペレーションチームが、さまざまな地域やビジネスラインで一貫した戦術の実行を確実に行うのである。
景気後退期に取り組むべきこと
生産性向上の維持に尽力しているCROとCFO、そしてCOOは、以下の重要な問題に取り組むべきだ。
・商業生産性を高める要因は何であり、目標に達している、あるいは下回っているという状況を、組織が把握しているか。
・翌年、3年後、5年後までに、どの分野で、どのレベルまで生産性を向上させる必要があるか。
・どのような戦術を組み合わせれば、目標への現実的な道筋を示すことができるか。
・生産性を高めるために、適切な組織体制、オペレーションモデル、シニアリーダーの配置はできているか。
・生産性向上の責任者は誰か。その人物は、財務、人事、その他の役割のリーダーとの適切な報告やコミュニケーションの仕組みを持っているか。
商業生産性の向上を維持することは、どのような業界の企業にとっても、またどのような経済サイクルの段階にある企業にとっても利益をもたらす。現在のマクロ経済状況においては、不況によって経営陣が再編成されるため、生産性向上は特に重要だ。ベインの分析によると、2008~2009年の景気後退期には、世界の約3900社の間で業績格差が急拡大した。勝者は敗者を引き離し、その後の景気拡大期に利益と時価総額の差を広げた。
同じロジックが今日にも当てはまる。商業生産性のフレームワークは、企業を売上高とコスト削減の健全なトレードオフへと駆り立て、そのトレードオフが今後数年のうちに競合他社を追い越す後押しとなる。
"3 Strategies to Boost Sales and Marketing Productivity," HBR.org, June 05, 2023.