誠実に行動する
誠実さとは、CEOが支持する考え方と、行動の一貫性を示す尺度だ。それが一致しているほど、CEOの正統性は高くなる。従業員は、CEOの言うことすべてに耳を傾けてはいないかもしれないが、CEOのあらゆる行動を注視している。CEOが口先だけでなく実行しているかを常に評価し、それがCEOの正統性に大きく影響する。
CEOの正統性は、支持する価値観にコミットすることで高まる。それをすることがコストを伴う場合は特にそうだ。どのような代償を払っても安全でない製品のリコールをためらわないCEOや、会社が損失を出しても重要な研究開発プロジェクトに資金を提供し続けるCEO、投資が失敗した時にその決定が完全に自分の意思ではなかったとしても責任を取るCEOは、正統性を著しく高める。苦境に立たされた時にみずからの価値観を捨てるようなCEOは、正統性と、自身と組織へのコミットメントを低下させる可能性が高い。試された時に正しいことをする勇気を持つことは、正統性を獲得する強力な方法だ。
偽りがないことを示す
偽りのないCEOは、成功と失敗、強みと弱みについてオープンだ。他者からの意見やフィードバックを積極的に求め、作為を避け、「これが私だ」という感覚を醸し出す。偽りのないリーダーに出会った時、人々は「この人は本物だ」と思うものだ。CEOとしての役割を超えて、個人としてのありのままの自分をオープンにすることで、偽りのないCEOはより親しみやすくなり、人々と個人的につながることができ、人々がついてくるようになる。
会社を第一に考える
CEOになることは、会社への長年の貢献に対する見返りかもしれないが、名誉でもある。CEOは、会社の利益を自分の利益よりも優先していると行動で示すことで、正統性を獲得する。あるCEOはこう述べている。「自分のためではなく、会社のためにコミットしていることを人々は知るべきだ」
人々はCEOの給与や特権に眉をひそめるかもしれないが、会社の利益よりも自分の利益を優先させる人物にはいら立ちを覚える。会社を率いる特権をあらゆる機会を通じて認め、成功に対して他者に惜しみなく称賛を与え、失敗に対しては素早く責任を負い、他者に犠牲を求める前にみずから犠牲を分かち合うCEOは、正統性を享受する可能性が高い。
地に足をつける
リーダーは、正統性を維持するために、人間的で、謙虚で、近づきやすい存在であり続けなければならない。CEOという仕事は人を変化させるもので、ハーバード・ビジネス・スクール教授のラケシュ・クラーナなどの専門家は、その職務のリスクを、構造的に引き起こされるナルシシズムと表現している。CEOの仕事には多くの特典があり、絶え間なく称賛されるため、CEOが尊大になって他者に対する優位性を感じないようにするのは難しい。
ゼネラル・エレクトリック(GE)の元CEO、ジェフ・イメルトを例に挙げよう。GEは、イメルトが社用機で移動する際、1機目が利用できなくなった場合に備えて予備機を伴わせていたことが発覚し、それ以来、彼の評判は完全に回復していない。のちにイメルトは、このような取り決めがあったことを知らなかったと主張したが、彼の部下が予備機を必要とするほど彼の時間が重要だと感じていたという実態があった。つまり、CEOはその役割によって構造的に尊大になってしまうことを示唆している。一部のCEOは尊大な態度を取るだけではなく、他人の意見は重要でないと考えるようになり、それが傲慢さにつながる。
地に足をつけることは、家族との時間や仕事以外の時間を十分確保することでもある。CEOの時間管理に関する筆者らの調査では、CEOはしばしば家族や自分自身のための時間を犠牲にしていることがわかった。仕事に没頭することで、CEOは家族や自分という拠り所から遠ざかってしまう。家族との距離が広がることで、CEOは組織の規範や境界を越えた他の人間関係に引き込まれることもある。自分の拠り所となる人間関係を失うことは、私生活にダメージを与えるだけでなく、CEOの正統性をも危険にさらす。
目的意識を維持する
大きな目的意識と意義を他者に提供できるCEOは、高い正統性を持つ。CEOは、その行動を導く根本的な動機によって判断されるため、社会への貢献や顧客にとっての真の価値の創造といった大きな目標に奉仕していると見なされるCEOは、株主の利益を増やすといった平凡な目標に突き動かされていると見なされるCEOよりも、より高い正統性を持つ。組織に目的意識を植えつけることは、優れたリーダーの特徴の一つだ。さらに、人々はリーダーに対し、組織の業績を高めることだけを求めているのではなく、自分の仕事に大きな意味を見出してほしいと思っている。
要するに、権威をベースにしたリーダーシップは形式的な権力や意思決定権に基づくもので、能力をベースにしたリーダーシップはパフォーマンスを重視するのに対し、正統性に基づくリーダーシップは、他者の信頼、尊敬、コミットメントを鼓舞する行動や言動に基づくものである。これら3つのリーダーシップの形態は、いずれも特定の状況下では有効だが、正統性に基づくリーダーシップは、長い目で見てより持続的で効果的といえる。
"How New CEOs Establish Legitimacy," HBR.org, June 07, 2023.