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リーダーの影響力を高める「正統性」
コーポレートガバナンスは、CEOに強力な権威を与えている。しかし、権威だけでは発揮するリーダーシップに限界がある。私たちが権力者の言うことに耳を傾けるのは、そうすることが求められるからだ。権威は、ルールに従うメカニズムを通じて動機付けを行うものであり、職務の枠を超えた行動を奨励することはけっしてない。
エグゼクティブの影響力をより大きくするのは、新たなリーダーのコンピタンス、つまり、なぜそのリーダーがその役割に選ばれたのかを部下が認識できるような知性、冷静さ、パフォーマンスを示すことで生まれる信頼性である。有能さを示すリーダーはある程度の信頼は生むが、有能さに基づくリーダーシップは結局はもろいものだ。パフォーマンスが一時的にでも低迷すれば、リーダーの信頼性が疑われ、人々が従わなくなるおそれがある。
正統性とは、CEOが良い時も悪い時もリーダーシップを発揮するための、継続的な権限を与える高度な資質だ。正当なリーダーは、部下に好意を抱かせ、個人的なつながりを感じさせる。正統性を持つCEOは、忠誠心を駆り立て、自信を起こさせ、最低限の職務を超えて全力を尽くすよう周囲を動かすことができる。
正統性は信頼を生み、それはあらゆる組織において価値がある。信頼が高まれば、人々が労力を注いだり全力を尽くしたりするようになる。なぜなら人々が、他者も同じように努力しており、自分は認められ、公平に扱われると確信するからだ。CEOを信頼していれば、従業員は利用されることはないと確信し、個人的な見返りが不確実であっても、組織に対し長期的に投資することにも前向きになる。正統性を持つCEOは、人々から精神的な支えを受け、影響力を高めることができるため、よりよい業績を上げることができる。
権威、能力、正統性という言葉は、ハーバード・ビジネス・スクールの「ニューCEOワークショップ」で頻繁に使われる。年に2回開催されるこの招待制のワークショップは、過去25年間、筆者が数人の教授らとともに主催している。これまで売上高の中央値が100億ドル規模の企業の新任CEO数百人を受け入れてきた。彼らの多くとは、一対一の対話や、毎年開催されるワークショップ修了生の集まりを通じて、その後も長年連絡を取り合っている。
参加するCEOの多くは新任であるため、就任後の数カ月間にどのような言動を取るべきかを当然懸念している。彼らはすでにCEOの職に就いており、権威を持っているが、単なる能力を超えて自分自身を正当なものとして確立したいと考えている。
では、CEOが正統性を獲得し、維持するためには何が必要なのか。以下は、企業リーダーがその役割において示すべき7つの行動だ。
明確なコミュニケーションを取る
従業員は、説得力のある物語を語れるリーダーに惹かれる。組織がどこから来てどこへ行こうとしているかを理解するのに役立つ話を、自分事として語れる存在だ。勝つために組織が外部の重要な変化にどう適応すべきか、そして組織の成功に貢献する各従業員の役割とは何か。リーダーがこうしたことを明確に説明できれば、さらに効果が高まる。自分がどこに向かっているのかがわかっていて、選ばれた道が理にかなっており、その旅路で自分が果たせる役割が明確であれば、人に誠心誠意ついていくのは簡単だ。
筆者らのワークショップでは、1981~1994年にSASグループ(旧スカンジナビア航空)のCEOを務めたヤン・カールソンを例に挙げている。就任当初の公の発言で、彼は航空事業の主な経済的原動力を極めて明瞭に説明し、同社に親しみのない人でも理解できるような方法で、各従業員が影響を及ぼすことのできる細部と大局的な結果の間にある点と点を結んで全体像を示した。CEOなら誰でもこの能力を持っていると思うかもしれないが、その能力は千差万別だ。SASのステークホルダーは、ビジネスを明確に理解している人物がトップに立ったことに安心し、カールソンは即座にリーダーとしての正統性を高めた。
公正さを示す
CEOは他者に対して大きな権力を持つため、公平であると認識されなければならない。「それは公平ではない」という言葉が出たら、CEOの正統性は損なわれる。組織全体を方向づける立場のCEOは、思いやりがあり、公正であるべきだ。CEOが一部の人を特別扱いしたり、提案や人の価値を不公平に判断したり、称賛や報酬を与える際にひいきをしたりすると、正統性を失う。そうなると、人々は最大限の努力をしなくなり、自己保身や政治的行動に走るようになる。