社内の「主流」の部署から学ぶ
次に、いますぐにグーグルやDBS銀行のやり方をお手本にするのが難しすぎると感じる場合は、差し当たり自社の財務部門をお手本にすればよい。民間企業だけでなく、非営利組織や政府機関にも予算に関わる業務を担当している部署があるはずだ。筆者らの経験から言うと、組織の財務部門は、ほかのいかなる部署よりも、その組織内で「主流」の部署になることに成功している。
ここで言う「主流」とは、ほかの部署と切り離された存在ではなく、組織のあらゆる要素と一体化している状態を意味する。ほとんどの組織の財務部門は、その条件を満たしているといえるだろう。具体的に見てみよう。
・財務部門は、明らかに戦略に関わる部署と見なされている。取締役のほとんどは、自分の財務委員会を持っていて、会議のたびに財務報告を期待する。
・CFOはたいてい、CEOの側近グループの一員と位置づけられていて、ほぼすべての重要な決定に関与している。
・CFOの任期は概して、CDOより長い。CDOの在任期間が極めて短い場合が多いことは、前述した通りだ。また、CFOがあまりに短期間で退任すると、ウォール街の市場関係者はその企業に警戒の目を向ける。
・多くの場合、ほぼすべての施設、工場、部署に、財務担当のスタッフが配置されている。そして、そうした財務担当のスタッフたちは、本社の財務部門と少なくとも弱いつながりを持っている。
・ほぼすべてのマネジャーは、予算の策定、投資利益率(ROI)の算出など、基本的な財務関連業務の進め方を知っている。実際、マネジャーの大半は、財務関連の仕事に多くの時間を割いている。
・財務部門は、メンバーに何が期待されているかを明らかにし、メンバーに活用させたいツールと準拠させたいプロセスを用意し、その状況をモニタリングする。財務上の手続きに従うことは、すべてのメンバーに必須とされている。
・財務部門は、みずからが使用するデータと提供するデータが極めて高い質を維持するように、膨大な労力を費やしている。
以上に挙げたリストの1つ目は、財務部門が戦略に関わる部署と見なされているという点だった。そのように位置づけられる存在になることは、データ関連の活動を「主流」にするうえでの大きなステップといえる。データから学習し、データをモニタリングすることを戦略上の機会と位置づけた組織は、上記のそれ以外の要素を実現しようと努めることになるだろう。
すべての人を関わらせる
最後に、いま組織の上級マネジャーの地位にある人たちが苦しい状況に置かれていることはよくわかる。ビジネスの現場でデータ分析が実践されるようになって久しいが、テクノロジーはあまりに難しいものに見える。ところが、大きく話題になっているために、その導入は実際よりもはるかに簡単であるかのように思われがちだ。しかも、データ分析は、ますます避けて通れない活動になっているように見える。
このような状況で、テクノロジーを専門としていない人たちは、取り残されてしまいがちだ。しかし、専門のスタッフが信頼性の高いデータの確保に腐心し、テクノロジーを忍耐強く導入しようと努めるとしても、専門家以外の社員の力も欠かせない。精鋭のデータサイエンティストですら、一般の社員たちの助けなしには、ビジネス上の問題を真に定義したり、データの意味を理解したり、ビジネスプロセスに新しいモデルを導入したりすることは不可能だ。ましてや、データの質を改善する必要が生じた場合に、それを実行することなどできない。
たしかに、筆者らは、長い目で見ればデータに関して強気の見方をしている。データは、膨大な数の働き手を退屈な作業から解放し、やはり膨大な数の働き手の業務を補強し、膨大な数の働き手に新しい高給の職をつくり出す可能性があると考えている。ただし、負の結果をもたらすリスクがあることも理解している。
その一方で、人々が恐怖心を抱くのは賢明な姿勢だとも感じている。いま世界の何十億人もの人たちが生計を立てられているのは、退屈な仕事のおかげなのだ。上級リーダーたちがこの点に関する不安を取り除けるのであれば、それが理想であることは言うまでもない。しかし、ほとんどの企業で、それを期待するのは現実的でないだろう。それでも、上級リーダーたちは、働き手の不安を受け止めるべきだ。いますぐにデータの活用に真剣に取り組まない上級リーダーは、自分自身の職について心配したほうがよさそうだが。
上級リーダーたちには、データ関連の取り組みにできるだけ多くの一般社員を参加させることを勧めたい。働く人たちはほぼ誰でも、チームのパフォーマンスを向上させるために役立つスモールデータを持ち寄り、基礎的なデータ分析で貢献することができる。そうした取り組みに参加することにより、社員のスキルと自信が強まることが期待できる。
そして、大勢の社員がスキルと自信を強化できれば、真の意味で大きな違いが生まれる。多くの企業にとって、社員がそのようなスキルと自信を持つことは、より規模の大きなデータとより高度なテクニックを扱うための前提条件でもある。また、多くの一般社員は、スモールデータを扱った経験に勇気づけられて、喜んでデータ関連の取り組みに加わるようになるだろう。
データ重視への転換は避けて通れない
企業は、それぞれの会社が好きな方法でマネジメントを行えばよい。その点は言うまでもないことだ。しかし、マネジメントにおいては、自社の最も重要な業務が行いやすくなるような方法を選ばなくてはならない。
どれほど小さな企業でも、極めて複雑な性格を持っている。そのため、社内で大きな関心を集めるテーマと、そうではないテーマの間に大きな落差が生まれることは避けられない。10年前までは、データにあまり関心が払われない状況は理にかなっていた。データは「主流」の存在ではなく、そのように扱う必要もなかったからだ。
しかし、今日は、そうした扱いは次第に理にかなわないものになりつつある。CDOやCAOを雇うだけでは、もはや十分ではない。企業は、データに関するマネジメントのパラダイムを大きく変えることが求められている。そして、そうした変化を主導すべきなのは、最上層部のリーダーたちなのだ。
"Your Data Strategy Needs to Include Everyone," HBR.org, June 07, 2023.