患者のいる場所が診療所になる、遠隔医療の未来
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サマリー:遠隔医療は、コロナ禍の初期にかつてないほどのペースで広がったものの、いまではそのピークが過ぎたように思える。しかし筆者らは、さらに発展する可能性があると考えている。それでは、次のレベルへと到達するため... もっと見るに、どのような課題を乗り越えるべきか。本稿では遠隔医療の可能性と、その実現のための課題を解説する。 閉じる

遠隔医療の可能性と課題

 遠隔医療に最も追い風が吹いている時期は、すでに過ぎ去ったのだろうか。筆者らはそうではないと考えている。だが、その懸念は理解できる。新型コロナウイルス感染症のパンデミックという公衆衛生上の緊急事態が収束して、遠隔医療関連の暫定的な法令の多くが廃止になっているからだ。だが、遠隔医療が次のレベルに到達するには、医療機関が備えるさらに多くの機能を患者に提供する必要がある、と筆者らは考えている。

 コロナ禍の初期に、かつてないペースで遠隔医療が広がった時、これはニューノーマル、すなわち遠隔医療が医療サービスの中核を成す時代の始まりなのかと考えあぐねる声があった。だが、これまでのところ、それはパラダイムシフトというより、穏やかな変化に留まっている。

 米国における1カ月当たりの遠隔医療の利用者数は、2020年4月のピーク時から大幅に減少して、現在は外来診療の約5%程度となっている。患者も医師も、総じて対面診療に戻った。なぜなら、患者も医師も、遠隔医療における診察の質、とりわけ健康診断や重要な検査(心電図など)を行えないことに疑問を感じていたからだ。

 その解決策は、医療機関の持つ重要な機能を患者に提供することにある。そしていま、このギャップを埋めようとする新しい産業が生まれている。すでに患者は、コネクテッドデバイスを使って自宅で血圧や血糖値を測定し、その数値を遠隔地にいる担当医と共有することができる。

 アップルウォッチなど市販のウェアラブル端末を使って、こうしたデータを取得できるようにする動きもある。ラボコープやクエストなどの臨床検査業者は、医療機関以外の「患者サービスセンター」に血液サンプルなどを提出できる幅広いネットワークを提供しているほか、郵送検査キットの種類も増えている。患者の自宅を訪れて、レントゲンの撮影や超音波検査、採血を行う業者も増えている。

 このような変化は、ごく一部にすぎない。こうした企業は、標準的な外来診療を再現するだけでなく、デジタル聴診器や超音波診断装置などの新しい機器を使って、より踏み込んだサービスを提供しようとしている。たとえば、医療機関で子どもの耳を診察するのは難しく、医師は鼓膜を一瞬しか見られないこともある。タイトケアが提供する「ホーム・スマート・クリニック」などの専用機器を使えば、親は子どもの鼓膜の全体的な状態を撮影して、医師に送信して視聴してもらうことで、理論的には医療機関で診察を受けるよりも優れた結果をもたらす可能性がある。

 新しいテクノロジーは、医療機関では得られなかったデータを集めることも可能にする。近未来的な話に聞こえるかもしれないが、最も症状が深刻な患者の多くは、デバイスを体内に埋め込んで症状を管理することが増えている。米国では何百万人もの心疾患患者が、ペースメーカーや除細動器などのデバイスを体内に埋め込んでいる。こうしたデバイスは、さまざまなデータを継続的に記録しており、その規模は医療機関で集められるデータよりもはるかに大きい。研究者たちは、こうした豊富なデータを活用して、慢性疾患の管理を改善する新しい方法を探っている。