このような新しいテクノロジーは、患者と医療従事者の関わり方も大幅に変える可能性がある。これまで患者は、数カ月に一度医師の診察を受ける程度だったかもしれないが、これらの新しいテクノロジーによって、もっと頻繁に、場合によっては24時間365日体制で体調をモニタリングしてもらうことができる。その結果、患者の健康状態や経過をより緊密に把握できるようになる。

 これまで医療行為を受けるための第一歩は、患者が踏み出さなければならなかった。新しいモデルでは、異常値が見られたら、患者が不調に気がつく前に医師が患者に連絡し、最も必要な時に患者に働きかけることができる。さらに、データ収集と診察を切り離すことで、患者と医師とのやり取りを最大限に生産的なものにし、治療や指導に集中できるようにする。同期的なやり取りは、こうした医療にぴったりだ。

 このように遠隔医療には大きな可能性があるが、乗り越えなければならない大きな壁もある。こうしたテクノロジーの多くは、平均的な患者や医療提供者には高額すぎる。時々しか利用しないのであれば、なおさらだ。また、典型的な医療の利用者は高齢で、技術に精通していないため、使いやすさも大きな問題になるだろう。誰もが良質な医療を受けられる医療の公平性も、大きな課題だ。

 未来の遠隔医療は民主化され、農村部の住民や、人種的・民族的マイノリティなど歴史的に十分な行政サービスを受けられなかったコミュニティも利用できるようにする必要がある。遠隔医療を最も必要とする患者のために、その未来への扉を開くには、遠隔医療用の医療機器を手頃な価格で利用できるようにするとともに、テクノロジーの壁を克服できるよう、一定レベルの「人間的な触れ合い」を提供する新しいプロセスや制度が求められる。

 オンライン診療と対面診療を組み合わせたハイブリッドモデルなら、待ち受ける多くの障害を軽減できるだろう。たとえば、地域の診療所やドラッグストアや食料品店、あるいは職場に、遠隔医療ホスティングサイトを設置する。こうした場所に、遠隔医療を受けるためのスペースを用意し、最新の遠隔医療技術を備えたうえで、テクノロジーを使いこなせて、対面で患者をサポートする「テレプレゼンター」を置くのもよいだろう。

 筆者らは、「患者のいる場所を診療所にする」重要性を説いてきたが、多くの要因が遠隔医療の今後に影響を与えることを理解している。新型コロナ関連の暫定的な遠隔医療関連法令が終了することが見込まれる中、遠隔医療の診療報酬や規制が今後どのようなものになるかは、まだわからない。また、さまざまな医療保険や自家保険企業が新しい遠隔医療技術をカバーするかどうかも、はっきりしない。だが、不透明な部分があるからといって、この分野でイノベーションを起こそうとする多くの企業の意欲が削がれることはないだろう。

 遠隔医療が、まだそのポテンシャルを最大限に発揮できていないのは、質の高いケアを提供するための検査や試験の能力が欠けていると、多くの医師や患者が考えているためだ。しかし、新しいテクノロジーやケアの方法は、遠隔医療だけでなく、ヘルスケア全体の新たな可能性を広げている。医療提供者や保険業者、そして雇用主が、こうしたトレンドを認め、患者と受益者と従業員のために、遠隔医療をどのように推進していくかを考えることが重要だ。

 ただ、何であれ、テクノロジーだけで物事が解決することは、めったにない。今後も意味のある「人間的な触れ合い」は必要とされ続けるだろう。企業や医療提供者は、これを費用対効果の高い方法で、テクノロジーとともに提供する方法を見つける必要がある。この課題は、テクノロジーから対面サポートまで全面的なソリューションを提供できるパートナーを見つけるか、企業ベースで遠隔医療ホスティングサイトを確立することによってクリアできるだろう。


"How to Tap the Full Potential of Telemedicine," HBR.org, June 05, 2023.