熟練の学習者が成果を上げる方法
能力と文脈を重視した堅固な学習文化を構築することは、企業に戦略的優位性をもたらす。その理由を考えてみよう。
まず、熟練した学習者である従業員は、よりイノベーションを起こすことができる。新しい方法で問題を解決する方法を学ばないなら、そこにイノベーションはない。継続的な向上を重視する人は、「いつもこのやり方でやってきた」という結論に安住することはほとんどない。熟練した学習者は、最新の知識やスキルのニーズを特定し、そのニーズを満たすために新しい知識を生み出す。
次に、学習は従業員のエンゲージメントを高める。雇用主が支援する学習は、従業員の能力開発と、ひいては上昇志向と目に見える形で結びついている場合、特に従業員の定着を促す重要な原動力になる。従業員が学習してみずから学び、向上する支援を行う文化を築くことで、従業員と組織の間で改善が共通の目的になっていく。さらに、学習を目に見える形で重視することは、新たな人材を惹きつけるカギになる。実際、Z世代とミレニアル世代の労働者は、就職先を選ぶ際の重要な動機として学習と向上心を挙げている。
最後に、学習への投資は、まさに投資である。ギャラップによると従業員の能力開発に投資する企業は、収益性が11%向上する。
熟練した学習者の文化を築く
熟練した学習者の文化の構築は、難しい取り組みである。それでも、そのような学習文化を発展させるために、リーダーやチームが取り組むことのできるUDLに沿った基本的な実践がいくつかある
学習理念を明確にして、忠実に守る
学習理念とは、組織が学習について考えていることを明文化したもので、学習の価値、学習に関連する個人の責任、組織が従業員の学習と向上を支援する方法などが含まれる。
学習が文字通りサバイバルのスキルである米海兵隊の理念を見てみよう。2020年に米海兵隊は「海兵隊ドクトリン7:学習」(MCDP 7)を発表し、最下層の下士官から司令官まですべての海兵隊員に、プロフェッショナルとして学習する責任があることを明確にした。さらに、学習に必要な条件を示し、一人ひとりがその条件に貢献し、活用することを求めている。
すべての海兵隊員は、いわゆる訓練部門に頼るのではなく、学習者としての自分の役割を明確にし、みずから学ばなければならない。「継続的な学習は不可欠である」と、米海兵隊総司令官のD.H.バーガーはMCDP7に記している。「(継続的な学習は)海兵隊員が戦場の状況の変化を素早く認識し、適応して、相対している敵に対してタイムリーな決断を下すことを可能にする」
学習に対する障壁がないか、文化を点検する
学習理念を定めたら、組織としての行動や実践、システム、特にリーダーの行動が、その理念の信条の模範となり、支援していることを確認する。組織内で現在、どのような学習が行われているかを検証し、一般的に考えられる障壁に対処する。具体的には、学習のための時間とリソースを提供し、学習の価値を定期的に強調する。また、実験、コラボレーション、知識の共有を奨励する。個人で知識を蓄えることより、チームで学習することを促進し、スキルの開発と昇進に関する明確な道筋をつくることによって、学習を能力開発に結びつける。そして、学習のニーズと潜在的な解決策をより迅速に特定するために、現場の従業員やマネジャーを積極的に参加させる。
柔軟性を持たせる
熟練した学習者として行動するためには、特に学習の選択と戦略的な適用においては、いつ、どのように学習するかという柔軟性が必要になる。ラーニング・クラスター・デザインやモダン・ラーニング・エコシステムのフレームワークなど新しいアプローチは、学習者の多様性を認識したうえで、それぞれの学習のニーズに最も適した選択肢を提供し、公式な学習と、学習が最も行われる場所──つまり仕事をしながら学習すること──とのギャップを埋める。
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変化はたえず起きており、それに適応する必要性は、リーダーだけでなく組織のあらゆるレベルにまで及んでいる。従業員が自分たちの改善をみずから行うことで、アップスキリングやリスキリングのニーズをより的確に予測し、周囲とコミュニケーションを取って、ニーズを満たすことができる。
ケンドラ・グラントがウォルマートにおける取り組みで指摘したように、学習者の内部にあると思われている向上のための障壁の多くは、実は外部にある。すなわち、学習のデザインの欠陥なのだ。UDLを用いることで、学習者の何がうまくいっていないかではなく、学習者にとって何が効果的であるかに注目しやすくなる。適切な文脈を提供し、学習能力をサポートすることによって、専門的な学習をスキルのギャップを埋める「スキル」に発展させることができるのだ。
"Build a Strong Learning Culture on Your Team," HBR.org, June 06, 2023.