ステップ1. 各ステークホルダーに期待する行動を特定する

 筆者のクライアントの例を紹介しよう。スチュアートは、あるクレジットユニオン(米国版の信用組合)のCEOだ。そこで筆者らは、このクレジットユニオンの主なステークホルダーをリストアップした。当然ながら、その一つは組合員だ。そこで、伝統的なブレインストーミングから脱却するために、シンプルな質問をした。「組合員にはどのようなことをしてほしいか」と。

 この質問は、このクレジットユニオンの経営陣にとって斬新なアプローチで、深く考えることを要求するものだった。しばらく話し合った結果、彼らは答えを出した。「組合員にもっと借り入れをしてもらい、潜在的な組合員には正式な組合員になってもらうこと」。これは「行動結果」と呼ばれるものだと、筆者は説明した。

ステップ2. 行動結果を組織目標に変換する

 そこで筆者は、スチュアートのグループを第2段階に進ませた。つまり、行動結果を組織の目標に変換することだ。

 これは通常、「増やす」か「減らす」という言葉で終わる。慎重な検討と議論の結果、グループの意見は次の点で一致した。「現在と将来の組合員からの収入を増やす」。「将来」という言葉に注目してほしい。これは、組合員と関連する戦略的要因の位置付けによって推進されるだろう。

 なぜ、この第2段階から始めなかったのか。もし第2段階から始めれば、必ずと言っていいほど、目標が寄せ集めの状態に戻ってしまうからだ。まず、主要なステークホルダーごとに期待する行動結果を明らかにすると、組織の目標を固定したうえで、測定できるようになる。

ステップ3. 測定方法を決める

 第3段階は、測定方法を決めることだ。これは通常、重要な業績評価の指標である、KPI(重要業績評価指標)と呼ばれる短いリストになる。これはやっかいな場合がある。というのも、この種の作業では、あらゆる物事がKPIに含められるからだ。

 スチュアートのクレジットユニオンも、個人の行動やプログラムの説明をKPIに含めていた。そこで筆者は、KPIとは重要な成果の測定方法であることを明確にしなければならなかった。

 スチュアートら経営チームが深く納得したのは、ビジネスの成果を測定する方法は3つしかなく、それぞれを示す記号があることを説明した時だった。この3つとは、$(または現地通貨)、#(数)、%(割合)だ。それまでは、このような形で結果をコンパクトに示した人はいなかったという。

 このアプローチの利点は、スチュアートのチームが、組合員について、測定可能なステークホルダー志向の目標を持つようになったことだ。スチュアートは、新規組合員と既存の組合員がもたらす総収益と、新規組合員と既存の組合員の数、そしてこのクレジットユニオンの市場シェアを測定できるようになった。競争優位を構築するいっさいの戦略(商品ラインアップ、顧客サービス、価格設定など)も、この3つの数字で評価できる。

 筆者はこれを、組織の主要なステークホルダー(顧客、従業員、サプライヤーなど)それぞれについて測定する。すると必ず、その組織が本当に成し遂げたいことを経営陣に考えさせることができる。

目標設定の旅

 明確にターゲットを絞った戦略を立てるためには、ブレインストーミングによって戦略目標のリストをつくるという一般的なやり方は避けなければならない。アンの経験が示すように、それでは測定困難な項目の寄せ集めになってしまう。

 そうではなく、主要なステークホルダーが誰で、彼らに何を求めているのかを明確にするというように、従来のプロセスを見直してみよう。明確で測定可能な結果が明らかになり、それぞれのステークホルダーに対する組織の戦略的な立場に、焦点を絞ることができる。そうすれば、明確な戦略が見えてくるはずだ。


"3 Steps to Identify the Right Strategic Goals for Your Company," HBR.org, June 09, 2023.