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目標設定の落とし穴
アンは、住宅型高齢者介護施設や高齢者居住コミュニティ、在宅支援などのサービスを提供する、米国最大の高齢者介護事業者のCEOだ。同社は、100年以上の歴史を持つ非営利事業者で、その運営方法にはいくつか特徴がある。その一つが、戦略目標の設定方法だ。だが、アンはそのプロセスに不満を抱いていた。そこで筆者は、なぜ不満があるのか尋ねてみた。
「事業の将来の方向性を話し合う時、いつも決まって目標を書き出すことになります。ファシリテーターがいる場合は、その人がフリップチャートやホワイトボードに『目標』と書き、ブレインストーミングの内容をどんどん書き出していきます。その結果、とんでもなく長いリストができ上がるのです」と、アンは説明した。
「それから、そのリストを圧縮していくわけですね」と、筆者は聞いた。
「そう」とアンは続けた。「目標を5~6個に絞り込むために、話し合いやゴリ押しが始まります。ある程度時間が経つと、みんな疲れてイライラしてくるので、早く次の議題に移ろうとします」
その結果、たいていチームのメンバーが満足できない目標ができ上がる。「私もそうです」と彼女は言う。「なぜなら、たいてい最終リストに残るのは、活動の寄せ集めや理想、漠然とした意見ばかりになるからです」。アンは最新のリストを見せてくれた。
・最高の雇用者になる。
・新たなセンターを開設して事業を拡大する。
・入居者や利用者に安定した介護を提供する。
・リスクと危機をきちんと管理する。
・規制当局の指導を遵守する。
・新たなテクノロジーを導入してオペレーションを変革する。
あなたの会社も同じようなリストをつくっているかもしれない。そして「これのどこが悪いのだろうか」と思うかもしれない。しかし、問題点がたくさんある。
アンの打ち出す戦略においては、入居者や利用者、従業員、サプライヤー、株主、地域社会などの主なステークホルダーそれぞれのニーズを満たすために、組織として何ができるかを具体的に明らかにする必要がある。そのために、それぞれのグループにとって重要な要素に関して、組織としての具体的な立場を示さなければならない。たとえば従業員については、労働条件や給与、組織文化などの方針を定めるべきだ。だが、こうした決定は何を手掛かりにすればよいのか。また、その決定が組織を進歩させているかどうかは、どうすればわかるのか。さらに、どのように測定すればいいのか。
これらの問いに対する答えこそが、アンの戦略目標のリストに並ぶべきだ。現在の寄せ集めのようなリストには、主なステークホルダーに対する事業の競争的な態度と、その結果との間に、明確なつながりがない。ある戦略がうまくいっているかどうかは、どうすればわかるのか。これでは目標リストが、ブラックホールの中にあるかのようだ。
目標設定に対する考え方を変える
このブラックホールから抜け出すコツは、考え方を逆転させて、組織が主要なステークホルダーに何を求めるかを考えることにある。きっとほとんどのマネジャーは、これを聞いて「なるほど」と思うだろう。それがあなたの会社の戦略目標になる。
たとえば、顧客には収益、従業員にはイノベーション、そして地域社会にはサポートを求める。成功する戦略目標を立てるためには、思考の方向を変えて、外から内へ向ける必要がある。このように目標設定を思い描くと、ステークホルダー別に考えられることがわかるだろう。