職場の緊張状態を積極的に解消する5つの行動
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サマリー:本稿は、人種差別や不快な発言といった職場での有害な振る舞いに対する適切な対処法を、筆者のチーフピープルオフィサー(CPO)としての経験をもとに提案する。職場での有害な振る舞いは、組織の成果や従業員の士気... もっと見るに悪影響を与える。この問題を解決するためには、対話と共感を重視するリーダーシップの役割や多様性を尊重する姿勢が重要だ。 閉じる

職場での悪意や危害にどう対処すべきか

 私はチーフピープルオフィサー(CPO)として、人間関係の緊張や有害な振る舞いが対処されず、解決されないまま、組織の失敗を招く事例を目の当たりにしてきた。人種に関する微妙な侮蔑や、プロジェクトの成果物に関する口論、不当な優位性にまつわる噂などは、チームのパフォーマンスや協同作業、生産性に悪影響を及ぼし、チームの間で業務をめぐる摩擦を生み、従業員に意欲の喪失(ディスエンゲージメント)や不信、士気の低下をもたらす。

 こうした問題は、性格や考え方の違い、人種や階級、性別による優遇、仕事やコミュニケーションのスタイル、力の不均衡、仕事のプロセスやビジネスの目標の透明性や明確性の欠如など、さまざまな要因によって生じる可能性がある。

 仕事上の人間関係の衝突は避けられないが、共感や説明責任、自己認識、そして勇気を持って問題を解決し、問題の拡大を速やかに食い止めるというみずからの主体性を、私たちは忘れがちだ。チームの中で年下のメンバーや、過小評価されているグループに(時には複数のグループに)属する人は特に、みずから行動することに不安や危険を感じるだろう。

 最近、私の組織で成長株として注目されている有色人種の若い女性が、自分のキャリアを大きく前進させる可能性のある新しいチームへの参加に懸念を示した。そのチームのマネジャーとの会話で、ある社交イベントにおける従業員の人種隔離について彼が無神経な発言をしたことに、彼女は悩んでいた。自分のキャリアに不安を覚え、このマネジャーが自分のアイデンティティと経験を尊重しないかもしれないと考えたのだ。人種差別が蔓延し、敵対的で不快な職場環境になるのではないかと思い、彼女は人事(HR)担当パートナーに指導を求め、パートナーが彼女と私をつないだ。

 彼女は新しいチームに加わりたいが、マネジャーに彼の言葉の影響に関する説明を求め、振る舞いの改善を促したいと望んでいた。私は彼女に、この問題に直接対処するか、あるいは彼女の安全と尊厳を優先して、私のサポートを受けながらマネジャーと会話をするかという選択肢を提示した。慎重に検討した結果、彼女は直接関わることを選んだ。私は彼女に、自信を持って思慮深く自分を表現する方法を指導した。

 その後、彼女から前向きな結果の報告があった。マネジャーは共感を示し、真摯に謝罪して、軽蔑的な発言についてチーム全体に向けてその存在を率直に認めることを約束したのだ。

 本稿では、この従業員の経験や、私のキャリアを通じてコーチングをしてきた人々の経験に基づき、職場で悪意や危害を目撃したり経験したりした場合に、人間関係の緊張や有害な振る舞いを減らしたり、止めたりできる5つの行動を提案する。

1. 緊張の根本的な原因を見極める

 職場の人間関係の衝突に対処する場合、最初のステップは根本的な原因、つまり緊張の真の原因を特定することだ。エイミー・エドモンドソンは著書『The Fearless Organization 恐れのない組織──「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』で、有害な職場環境や燃え尽き症候群(バーンアウト)、人的資本の損失など、組織における心理的安全性の欠如がもたらす代償について探求している。

 個人やチームの安全性、快適性、パフォーマンスを低下させる不健全な振る舞いを取り除くには、何を変える必要があるか、現実を直視しなければならない。プロジェクトの進め方や、どのパートナーと関わるか、成果の指標をめぐる力の不均衡や意見の相違は、誤解や意見の対立、協働の崩壊の根本的な原因になりやすい。そのような状況では、年下の従業員や有色人種の女性、過小評価されているグループの従業員は、報復や否定的な評価を恐れて、対立に関して発言を控えることも少なくない。

 先のケースでは、緊張の根本的な原因はマネジャーの人種的に無神経な発言であり、それが潜在的に、敵対的または不快な職場環境、敬意の欠如、この有色人種の女性やほかの人々の実体験に対する軽視につながるのではないかという不安を生んだ。

 このような状況に支援と共感、勇気を持って対処することにより、緊張の根本的な原因を明らかにして、対処することができる。さらに個人の幸福やキャリアアップに対する悪影響を未然に防ぐことができる。ただし、重要なのは、このアプローチが常に実行可能で安全であるとは限らないことだ。先のケースでは、彼女は会話が本筋から外れた場合には私が介入するだろうと信頼していた。

2. 理解されるだけでなく、理解しようと努める

 仕事上の人間関係は、誤解を共有しやすい。ストレスが強まった瞬間に意図せず発した間違った言葉、それがジェンダーや人種の偏見に起因するような場合は特に、同僚との間に深い楔を打ち込みかねない。共通の理解を築くには、他者の意見を受け入れる余裕を持ち、複雑で微妙な状況に共感して、同僚とともに安全感と信頼感を育むことに関して責任を持つことが重要だ。

 先の例では、マネジャーは自己防衛をしようと構えるのではなく、自分たちの言動が及ぼす影響を理解しようと努めて、メンバーとつながり、学び、成長する機会を受け入れた。この対応により、能力が不足していると思われたり、仕事を奪われたりすることを恐れずに、間違いを認め、変わる努力をする意志を示した。リーダーシップの課題の方向を逸らしたり嘆いたりするのではなく、チームの幸福を優先したのだ。

 マネジャーが彼女の懸念と向き合って理解する手助けをすることを通じて、彼女は驚くほど強い共感を示した。このマネジャーを見限ることも許されただろうが、彼女は成長の機会だと理解して、建設的な対話に努めた。このアプローチにより、彼女は自分の主体性を確信することができた。他者が学んで改善できる協力的なアプローチの手本になることを選んだのだ。

 この2人の対話は、オープンで安全、かつ信頼できるコミュニケーションが持つ変革の力を鮮やかに示している。当事者の双方が、理解し、理解されようと真摯に思いながら、やっかいで不快な会話に臨んだ時に、前向きな変化をもたらすという素晴らしい可能性を浮き彫りにした。