3. 介入するタイミングを見極める
何かを言うのも言わないのも、どちらも重大な結果をもたらす選択である。
問題の瞬間やその直後に介入する時もある。攻撃する、中傷する、軽蔑するような発言をした人と2人きりになった時、何かを言えば誤解されたり、発言があなたに対する武器に使われたりしそうな危険を感じた時は、サポートしてくれる人が近くに現れるまで待つか、人事部や匿名のホットラインに通報する。
あるいは、声を上げることができると思える状況なら、「あなたが〇〇と言った時、私は○○と感じました」「あなたはそんなつもりで言ったのではないとわかっていますが、私はあの発言を受け入れることができませんでした」などと言うこともできる。あなたのフィードバックを受け取った人は、自分の言動が与える影響に気づかされるきっかけが必要なのかもしれない。長く時間を空けすぎると、否定的な感情が長引いて、あなたやほかの人の中でその否定的な感情が大きくなる危険がある。
先の例で、女性従業員が悩みを打ち明けなかったり、マネジャーが防衛的な反応をして報復したりしていたら、健全で活気のある職場環境を育む機会を逃していただろう。さらに、不安の文化を浸透させて、彼女や同じような不安を共有するほかの従業員の負担になり、最終的に彼らのキャリア全体の成長と幸福を妨げたかもしれない。
4. 助けを求める
私はキャリアを重ねるにつれて、権威ある立場を活かして、有害な振る舞いに異議を唱えるリーダーに憧れるようになった。そして、私自身がリーダーシップを発揮するようになると、自分が望む振る舞いの手本を示す責任があることを理解した。
やっかいな状況や組織内の衝突の解決、苦情への対応、懲戒手続きについて、マネジャーやリーダーからの指導が足りない時は、人事チームを頼る。ためらう気持ちはわかる。人事部門との関係が良好ではない人は特にそうだろう。
しかし、人事部門は、従業員の声や自主性、安全を擁護するために存在する。情報収集や、根本的な原因の理解、適切な行動の判断について、彼らはあなたをサポートできる。人事担当は、建設的な対話を促進し、あなたや関係者を指導して、振る舞いをめぐる問題に対処するための積極的な解決策を見つけることができる。ただし、この選択肢は、チームのメンバー間の緊張や不快感を高めるかもしれないため、慎重なアプローチが求められる。
リーンインとマッキンゼー・アンド・カンパニーが米ビジネス界の女性の現状について発表している年次報告書「ウィメン・イン・ザ・ワークプレース2022」によると、女性全体、黒人女性と障がいを持つ女性は特に、判断力を疑われ、立ち振る舞いを批判されるなど、職場でマイクロアグレッション(無意識の、あるいは微かな差別的言動)を頻繁に経験している。職場で利用できるリソースに支援を求めることは、活気のある健全なキャリアを育むうえで大きな違いをもたらしうる。このような有害な経験に対処して軽減するためには、同僚、マネジャー、リーダーシップの責任を問うことが極めて重要だ。
先の例で、女性従業員は複雑な状況を乗り切るために、人事部門にコーチングを求めた。利用可能なリソースを活用して、彼女はこの問題に効果的に対処する力をつけ、自分とチームのほかのメンバーの経験に大きな変化をもたらした。彼女の積極的なアプローチと、支援を求めること、フィードバックを受け入れること、内省に取り組むことは、前向きな結果を得るうえで決定的な役割を果たした。
5. 危害を修復し、信頼を修復する
マイクロアグレッションのような害のある行為が繰り返されると、幸福感、職場の満足度、生産性に大きく悪影響を及ぼす。誤解、視点や期待の食い違い、人を傷つける言葉、権力の乱用、信頼の裏切りから生じる人間関係の緊張を癒すには、傷つけられた人が、話を聞いてもらえる、尊重されている、大切にされていると感じられなければならない。
修復的正義の提唱者として知られるケイ・プラニスによれば、説明責任を引き受け、引き起こされた危害を正して再発を防止するための対策を実施するには、次の5つの要素が必要である。
1. 自分の行為が危害を及ぼしたことを認める。
2. その行為で自分が主体的な役割を果たしたことを認める。
3. 自分の行動が影響を与えたすべての人に、どのような影響を与えたかを正しく理解する。
4. 危害を修復して償うための対策を取る。
5. 危害を与えるに至ったパターンや習慣を特定し、その習慣を改めるための対策を取る。
危害の修復には、危害を認識する、反省を表明する、罪を認める、新たな方針や約束、合意を通じて振る舞いを変えることを約束するなど、さまざまな形がある。
私は有色人種の女性として、不快だと思い、動揺させられ、傷つけられるような発言をよく耳にしてきたし、残念ながら私自身も同じことをほかの人にしてきた。自分がマイクロアグレッションのターゲットになった時は、同僚に話しかける前に自分の考えや感情を整理し、「私」を主語に積極的に主張して、緊張を和らげるために思いやりやユーモアを交えながら返答するようにしている。
たとえば、こんなふうに言う。「要点を整理するミーティングで、あなたが私に言及せずに私の提言を言い換えた時、自分が会話から抹消されたように感じました。私は健全な仕事上の関係を望んでいます。私の貢献が省かれた理由を、私が理解できるように教えてもらえませんか」「あなたが私を同じフロアにいる別のラテン系女性と間違えた時、私たち2人はあなたの目に映っていない存在なのだと感じました。私は記憶に残りやすいタイプだと思いますよ」
誰かのジェンダーを間違えるなど、意図せず無神経な発言をした場合、私はすぐに謙虚な姿勢でその影響を受けた人に接する。自分の言葉が与えた影響を理解するために真摯に耳を傾け、心からの謝罪を伝えると同時に、自分の言動にすべての責任を持つ。さらに、私がそのような行為を繰り返した場合は教えてほしいと、その人たちに伝える。私は自分の過ちから学び、成長しようと決めているからだ。
はっきりさせておきたいのは、健全な交流を育む方法を同僚に教育するのは、女性やBIPOC(黒人、先住民、有色人種)、疎外されているコミュニティのメンバーの責任ではないということだ。
より有意義な人間関係を積極的に築くために、自分に問いかけよう。相手の言い方や見た目だけでなく、話している内容に集中するにはどうすればよいか。同僚の発言を否定したり避けたりするのではなく、その人が伝えようとしていることを理解するために、自分は何をすればよいか。
そして、誰かの不快な発言に対処する前に考えよう。 自分は黙らせられたり、無視されたり、気分を害されたりすることに反応しているのか、それとも正しくあろうとしているのか。双方に意思があれば、建設的な会話と理解の共有につながる対応方法が見つかる。
危害を与える行為が繰り返される場合は、特に対処が必要だ。マサチューセッツ工科大学(MIT)のスローンスクール・オブ・マネジメントが2022年に実施した研究によると、従業員の離職率に影響する要素として「有害な企業文化」は「報酬」に比べ10倍のインパクトがあるとわかった。責任を取るとは、チーム全体のさまざまな視点や経験を理解して、緊張の原因を積極的に特定することでもある。その出発点として、「何を聞くべきか、何を言うべきか、結果として何を求めるか」を自問しよう。
先の例においてマネジャーは、自分の無神経な発言が最初に壊した信頼を修復するために、不可欠な段階を踏んだ。自分の言葉が引き起こした危害を認め、開かれた対話を行うことによって説明責任を果たしたのだ。そして、自分の言葉が与えた影響を積極的に理解しようと努め、自分の振る舞いを変えるための具体的な手段を講じることをみずから提案し、新しくチームに加わる女性従業員との信頼関係を修復して、チーム全体との関係も修復に向かい始めた。
すべての人が活躍できるように職場の状況を変えたいと多くの人が思っているが、状況を悪くするのではないか、間違ったことを言ってしまうのではないか、十分なことができないのではないかと不安になる時もある。人間関係の緊張や有毒さに対処するには、共感、意図のある振る舞い、勇気を育むような継続的で積極的な取り組みが必要になる。
緊張の本当の原因を特定し、理解しようと努め、介入するタイミングを見計らい、必要であれば中立的な第三者を巻き込みながら、危害と信頼を迅速かつ頻繁に修復することで、対立がエスカレートするのを防げる。それにより、強く、つながりが深く、効果的なチームを築くことができるのだ。
"How to Proactively Defuse Tension on Your Team," HBR.org, June 13, 2023.