AIを活用したコーチングを成功させる5つのステップ
AIを活用したコーチングの取り組みで、従業員にとっても、マネジャーにとっても最高の成果を上げられるよう、以下のステップをお勧めする。
心理的安全性と信頼を確立する
長年の研究から、当事者間の信頼に基づく関係は、効果的なフィードバックやコーチングに極めて重要であることが明らかになっている。これは、AIが生成した評価という「ブラックボックス」を扱う際には、いっそう不可欠である。
たとえば、新しい研究によると、従業員は、自分たちにとって最善の利益をマネジャーが心から願っていると感じた場合、当初は納得できなかったAIが生成した提言も前向きに受け入れるようになるという。マネジャーは、AIツールを組み込む根拠を明確にし、従業員のデータの使用法について保証し、問題や質問があれば何でも言うよう促すことで、心理的安全性と信頼を生み出すことができる。
設計や実施に従業員も関与する
AIツールの検討から採用に至るすべてのプロセスに従業員を巻き込むことは、最高の品質と最大の同意のために極めて重要である。マイクロソフトが行った世界のエグゼクティブ4500人を対象とした最近の調査から、テクノロジー関連の取り組みで従業員に発言の機会を与えることは、従業員の満足とツールの利用を持続させるうえで、大いに効果があることが明らかになった。理想的には、パフォーマンスの指標やAIの生成するコーチングのタイプを決定する段階にまで従業員が関われるとよい。
自身のデータと参加を従業員がある程度コントロールできるようにする
AIベースのコーチングシステムへの関与について、従業員に主体性を持たせることは、詮索やプライバシーに関する懸念を緩和するのに役立つ。たとえばエレオス・ヘルスのプラットフォームでは、セラピストは特定のクライアントのセッションについてプラットフォームの使用を取りやめることができる。もう一つのお勧めできる方法は、従業員を含めたAIガバナンス委員会を設置し、どのデータを収集し、どのように利用し、従業員のプライバシー保護のためにどのような保護手段を設定するかについて、透明性を確保することである。
アウトプットを効率化し、カスタマイズする
一般的にAIツールでは、マネジャーがデータ表示や生成された分析をカスタマイズできる。こうした機能は存分に活用したい。たとえば、使用開始の時点では、従業員がツールに安心感を持てるようになるまで、2~3のパフォーマンス指標に絞るとよいだろう。
マネジャーは特定の従業員のニーズを反映して、フィードバックの質をカスタマイズすることもできる。たとえば従業員のオンボーディングの期間には、より励みとなるようなフィードバックを出力させることができる。ある研究によると、AIコーチングツールは、中程度のスキルの従業員に最も効果的であるという。スキルの低い従業員は、フィードバックの提言が多すぎて圧倒されることがあるし、スキルの高い従業員はフィードバックの内容が乏しいと感じることがある。従業員が望むのはパーソナライズされたコーチングなので、組織のさまざまな人々や状況に対応できる柔軟性を備えたAIツールを選ぶことが大切である。
マネジャーの集中的なトレーニング
多くのマネジャーにとって、心からの共感や思いやりをいかにプロセスに取り入れるかといった、効果的なコーチングの基礎トレーニングは有益だろう。AIツールを組み込むことで、マネジャーにはさらなるアップスキリングが求められる。技術的なノウハウだけではなく、繊細な配慮と説得力を持って従業員にAIが生成したデータを説明する方法についても、マネジャーはトレーニングを必要としている。またAIツールは、実践例やその他の形態の体験学習を提供することで、新しいマネジャーの訓練にも役立つだろう。
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AIツールは、マネジャーの負担を増やすことなく、コーチングの頻度やパーソナライゼーション、正確性を高めるのに特に有望である。ただし、このようなプラス面は保証されているわけではない。成果を上げるためには、マネジャーと従業員の双方にとってよりよい体験につながるような形で、AIテクノロジーを組み込むことが、極めて重要なのである。
"How AI Can Help Stressed-Out Managers Be Better Coaches," HBR.org, June 21, 2023.