人と組織はビジネスのラストワンマイル

 いま、巷では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が叫ばれ、各分野でIT による業務の効率化やAI の活用といったことが求められています。「DXが進むと、これまで人がやっていた仕事はデジタルに置き換えられ、人や組織に関わる仕事もなくなってしまうのではないか」などと不安に思う人もいるかもしれません。

 しかし、デジタル化が進むことによって、「人と組織」に関わる仕事の重要性がただちに一様に低下する、というものではありません。むしろ、事態はそれほど単純ではないのです。

 言うまでもなく、機械やAIによる「人間労働の置き換え」を主張した論文としては、2013年のオックスフォード大学のフライとオズボーンの研究が非常に有名です。彼らは、今後20年の間に、AIやコンピュータによって代替される確率が高い職業が、米国の全職業のうち47%にのぼるという試算を出しました。

 それからほぼ10年、確かにいくつかの仕事は機械化・AI化が進んでいますが、半数の仕事が失われるまでにはなっていません。

 これは、職業というものを、より細かいタスクに分解してみなければ、仕事の代替可能性の正確な数字は把握できないためです。つまり、一つの仕事の中には、代替が極めて困難な、対人関係調整を含むタスクや、即興的反応を要するタスクが含まれています。このタスクが一つでも含まれる仕事は、その職業すべてを機械に代替することは困難になるのです。そのように、仕事の詳細を分析してみると、人間の仕事の中で、完全にコンピュータに代替されるものは、おおよそ9%しかない、という試算もあります。

 DXが喧伝され、機械化・AI化が進む現代の企業だからこそ、人と組織に関わる仕事の重要性は、かつてないほど高くなっていると言えます。なぜなら、どれほど業務が効率化され、デジタルに置き換わっていったとしても、ビジネスのどこかにはAIや機械では対応できない高度な仕事が存在し、それらを担っていく人材が必要になるからです。

 とりわけ、我が国は人手不足の最中にあり、今後、数十年にわたって、この課題と向き合うことになります。まずは、むしろおおいに機械化・AI化を進めて、どうしても埋められない人手を確保しなくてはなりません。そして、同時に、人でしか対応できない仕事や、企業の中核を担うような仕事を担当する、高度な人材を育成しなければなりません。

 確かに、これまでのように、それほど多くの数は採用できなくなるかもしれません(事実、人手不足で、採用できないのです)。しかし、きっちりと優秀な人材を確保し、彼らにモチベーション高く働いてもらうニーズは、増えこそすれ、減ることはありません。

 どれほどよい戦略を立てても、どれほど財務状況がよくても、どれほどよい商品・サービスをつくっても、どれほど効率的なシステムをつくっても、どれほど優れたマーケティングチャネルをつくっても、最終的には、ビジネスには「人」が介在する部分が生じます。

 企業の戦略は、このようなビジネスの「ラストワンマイル」を埋める、非常に泥臭くて地道な活動があって達成されるものなのです。そして、この最後のワンマイルを担う「人と組織」を支える仕事こそ「人事」であり、その一部が本書で扱っている人材開発・組織開発である、ということになります。

人材開発・組織開発コンサルティング:人と組織の「課題解決」入門

[著者]中原 淳
[内容紹介]
人と組織の課題解決のための7つのステップを徹底解説!
■メンバーとの信頼をいかに築くのか
■現場のデータ収集・分析のコツとは
■理想的な対話と決断の場をつくるには
■現場実践の促進と評価のポイントとは
企業の人事・教育担当者から社外コンサルタントまで必読。
人材開発・組織開発に携わるすべての人々のために編まれた「日本初の教科書」です。

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