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人材開発・組織開発は「学んで終わり」ではない
前回は、ビジネスの「ラストワンマイル」を担う「人と組織」を支える「人事」の仕事、そして人材開発・組織開発の重要性をお話ししました。
──参考記事:人と組織はビジネスの「ラストワンマイル」を担う(連載第2回)
それでは、もう一歩先に問いを進めましょう。
次にわたしたちが考えるべき問いとは「経営戦略を実現するうえで、人材開発・組織開発が果たすべき役割とは何か」です。人材開発・組織開発は、採用・処遇・配置・評価など、人事の数ある機能のうちの一つですが、そこにはどのような「固有の役割」があるのでしょうか。
戦略を達成するための人事の役割が「企業の戦略実現に必要な人材を確保して、彼・彼女らに行動してもらい、経営にインパクトを出す」ことだとすれば、人材開発・組織開発の仕事においても、常に「経営へのインパクト」を考える習慣を持たなければなりません。これは文字にすればあたりまえのことなのですが、しかしながら、人材開発・組織開発の仕事に没入していけばいくほど、とかく忘れがちなことです。
人材開発は、個人に対して、知識やスキルを学んでもらう、マインドに変化をもたらすなど、「人が学ぶというメカニズム」を「手段」として利用して、経営・現場にインパクトを残すべく課題解決を行います。
その中核には「学び」がありますので、一見、人材開発は、「教育学」や「学習研究」の一種のようにも見えます。しかし、それが経営に紐づくためには、ただ単に「学べればいい」わけではありません。人が学べていて、かつ、現場の人々に感謝されるような課題解決を行い、経営に対してプラスのインパクトがもたらされていなければ、人材開発と呼ぶことはできないのです。
一方、組織開発は、「人と人との関係を変える」ことを「手段」として用いることで、組織がしっかりとワークするように働きかけ、企業の戦略実現に寄与する、ということになります。組織開発も目指すところは経営に対してプラスのインパクトを与えることであり、単に「仲良しチームができればいい」わけではありません。組織への働きかけが功を奏し、組織がよい方向へと変わったとしても、経営や現場に感謝されるような課題解決ができていなければ意味がないのです。
また、人材開発においても、組織開発においても、その営みの効果を最大限残すためには、逆説的ですが、人材開発・組織開発の力だけに頼らない、ということも重要です。採用・配属・異動・評価など、様々な人事施策のすべてを組み合わせ、総出で、課題解決を行います。
実務の現場では、人材開発も、組織開発も、採用も、配属も、異動も、評価も、経営にインパクトを与えるための「手段」であり「道具」です。人材開発・組織開発のコンサルティングを行う人々は、その現場に合った適切な道具を選び取り、適宜、ブリコラージュ(組み合わせ)しながら、課題解決を目指すことが重要です。人事の現場での課題解決は「総合格闘技」なのです。手段を一つに限る必要はありません。
たとえば、ある会社でエンゲージメント調査(ここでは従業員のモチベーション調査くらいにお考えください)を行ったところ、従業員のエンゲージメントが非常に低いことがわかったとします。そこで、調査を提案したコンサルタントは、まずはその結果を個別の職場にフィードバックし、対話を通じて各々の職場の課題を明らかにし、その解決へと取り組むことにしました。
こうした試みそのものは、組織開発です。しかし、その過程で「従業員のモチベーションをさらに向上させるには、どうもマネジャー向けのコーチング教育が必要だ」ということになれば、それは人材開発の試みとなります。さらに、「マネジャーたちがもっと積極的に部下育成に取り組むよう、部下育成を評価項目に入れよう」となれば、それは評価制度の変更となります。
このように、多くの人と組織の課題は、人事施策を「セット」にして、はじめて課題解決ができるものです。