ビジネス部門のリーダーをデータ施策の支持者にする

 ビジネスリーダーは、データとアナリティクスへの投資の支持者、推進派になる必要がある。優れたデータリーダーは、ビジネスリーダーにとって不可欠なパートナーであり、ビジネス成果につながる重要なデータと意思決定ポイントを提供する右腕として頼りにされるようになる。

 たとえ善意によるものでも、CDAIOは「データとAIは素晴らしい、我々はさらに注力すべきだ」といった形で方針を押しつけようとすべきではない。事業部内でデータとAIを推進する準備ができているビジネスリーダーを探し、信用につながる結果を出し、信頼できるパートナーになろう。

データとAIへの投資をすべて検証し、資金が有効に使われているか確認する

「できればでよい投資」と「必要な投資」を区別する。今日、目に見えるビジネス価値を組織にもたらしている投資、または今後短期間で価値創出への迅速な道筋を示すことができる投資のみを継続すべきだ。成長と競争に必要不可欠なケイパビリティに、投資の焦点を再度合わせなくてはならない。

 データ、アナリティクスとAIでリーダーシップを発揮するためには、時間をかけ、関心を集め、明確で効果的なコミュニケーションを行う必要がある。加えて、ニーズを説明し、現実的な期待を設定し、賛同を引き出すためのストーリーテリング能力も求められる。

エコシステム思考に転換する

 データとAIを最大限に活用するには、ベンダー、大学やその他のパートナーとの協力関係と協業を促進することが重要だ。シュナイダーエレクトリックのランバッハは、次のように付け加えた。

「競争の新たな本質は、実はテクノロジーではありません。AI技術は変化が速すぎるからです。本質は、顧客に提供する価値です。そして、どのような価値を提供するのであれ、それはパートナーシップを通じて拡大できます。当社はIoT(モノのインターネット)のプラットフォームをサードパーティのイノベーションのために開放しています。これによりパートナーは、当社のソフトウェア開発キットを使って、建物の効率性とサステナビリティを向上させるイノベーションに向けて、新たなアプリケーションを開発できるのです」

慎重に進める

 生成AIは競争を一変させるチャンスをもたらすが、ランバッハが繰り返し述べたのは、リスクを理解して慎重に進めることの重要性である。

「(生成AIモデルによって)企業は新たな種類の脆弱性にさらされます。より大量かつ多様なデータに、より多くのユーザーが簡単に素早くアクセスできるようになることが、その大きな要因です。いまこそ、この新しいケイパビリティを責任を持って使うためのデータガバナンスとサイバーセキュリティの対策を立てるべきです。企業とユーザーは常に、生成AIに慎重に接して機密性を重視する必要があります。たとえば、ユーザーはパブリックアクセスが可能なAIチャットボットのプラットフォームには、いかなる機密情報もアップロードしてはなりません。セキュアまたはプライベートなバージョンの大規模言語モデル(LLM)を優先すべきです」

 多くのCDAIOは、リスク、財務、テクノロジー、サイバーセキュリティ、法務・倫理、プライバシー管理、人事、事業部のリーダーたちで構成される全社的な委員会を主導している。これらのチームの地位と説明責任を、さらに高める必要がある。そして企業はデータ、アナリティクスとAIの専門家を取締役会に加えるべきだ。

 自社の業界はデータとAIの倫理に対する取り組みを十分に行っている、と答えた企業は23.8%にすぎない。AIとデータのプライバシー、ガバナンスと倫理の問題は、責任ある形で効果的に対処がなされなければ企業にとって脅威となる。

 多くの企業がCDAIOの役割を厳しく見直しているいまこそ、データとAIのリーダーは前に踏み出して、自身が会社のビジネス価値にどう貢献しているのかを示さなくてはならない。データとAIへの投資から、ビジネス価値をどう引き出すのかについて明確なビジョンを持つ企業こそ、今後10年以上にわたり優位に立ち続ける可能性が最も高いのだ。


"Why Chief Data and AI Officers Are Set Up to Fail," HBR.org, June 20, 2023.