CDAIOが焦点を当てるべきだったのはテクノロジーとインフラではなく、ビジネス成果である。目標が商業的なものであれリスク管理であれ、その両方であっても、顧客のために自社が解決を目指している問題を特定し、ビジネス上の利益が最も高いユースケースを優先し、異なるケイパビリティを相互作用させるべきだったのだ。
「この仕事の最も難しい部分は、自分たちが顧客のためにどのような問題を解決しようとしているのかを知ることです」と語るのは、グーグルのチーフ・ディシジョン・サイエンティストにしてディシジョンインテリジェンス分野の第一人者、キャシー・コジルコフだ。
信頼の欠如も同じく要因となってきた。ビジネス部門のリーダーは、自分たちがデータ、アナリティクスとAIに行った投資がビジネス上の利益を生んでいる、つまりそれらの資金が有効に使われていると信じる必要がある。もしビジネス価値が明確に提供されていなければ、その信頼は損なわれ、ビジネスリーダーは追加の投資を渋ることになる。
CDAIOは、特に大企業では、組織全体でデータの信頼性に対する当事者意識を共有する取り組みの一環として、従業員、ポリシー、プロセス、スチュワードシップ(受託責任)モデルで構成されるガバナンスのインフラを築いてきた。これらの取り組みは複雑で、往々にして不評であり、成果を数値化しにくい。デジタル経済におけるほぼすべての問題は、データの問題といえるため、成果を測定できる合意された指標がない限り、成功は難しいのだ。
どう改善すればよいのか
新たなイノベーションの時代において、常に成果は不規則に生じるものであり、測定は困難となりがちだ。データと事業戦略が整合しておらず、経営陣と取締役会の優先事項とされていない、ガバナンスの取り組みがあまりに煩雑で普及と測定が進まない、規律が十分ではない、といった指摘はその通りである。
生成AIの台頭がこれらの問題を深刻化させ、ニュースで報じられているような信頼、品質、倫理をめぐる新たな問題を生み、経営陣と取締役会の注意を引きつけている。
企業がデータ、アナリティクスとAIの管理方法を改善し、CDAIO職を成功に導くことは可能であり、必須である。特に、企業の83.9%が2024年にはデータ、アナリティクスとAIへの投資を増やそうと計画している中、その必要性は高まる一方だ。
CDAIOの役割を改善し、データ、アナリティクスとAIへの投資からビジネス価値を引き出すために企業が今日にでも着手できる、具体的な提案を以下に挙げたい。
データへの当事者意識を全員に持たせる
CDAIOは長きにわたりデータリテラシーの重要性を提唱してきたが、強固なガバナンス、ポリシー、基準などの導入において一貫性が欠如している。
データに関して最も成熟し規律が整っている部門は、通常は財務とコンプライアンス関連だ。経営陣と取締役会が関与して、これらの部門の成功を後押しすることで、会社全体の模範とすることができる。
エネルギー管理とデジタルオートメーションの世界的大手、シュナイダーエレクトリックで最高AI責任者を務めるフィリップ・ランバッハは、全員がデータへの当事者意識を持つ企業文化をいかにして築いたのかを語った。
「データ管理に真剣に取り組むには、専任組織が必要です。この意欲的な目標を推進するために、我々はデータ部門をIT部門から切り離し、会社全体のガバナンス、ビジネス、パフォーマンスの課題に集中させることにしました。その後、CDOと、最高AI責任者という2つの役職の設置を決めました。データを重視する取り組みでカギとなるのは、社内で信頼できる唯一の情報源の確立に努めること、そして社内のどこからでも、すべての意思決定者が質の高いデータに簡単にアクセスできるようにすることです」