リーダーは自分の影響力を見つめ直せ
リーダーは自分のことを、みずからの部署や組織で正しいことを許可する門番だと考えていることが多い。これまでに挙げたケースでも、リーダーは、自分がやっているのは正しいことだと信じていた。危険なのは、自分の行動の意図と影響力のギャップに気づいていないことだけではない。リーダーの報復がもたらす余波は計り知れない。リーダーが、自分の行動とその影響力を知るツールを持たないと、あらゆるステークホルダーに悲惨な結果をもたらしかねない。
人間は、自分のことは善意で判断し、他人は結果によって判断しがちだ。筆者らが説くリーダーシップの基本原則の一つは、「リーダーの影響力は、リーダー本人ではなく周囲が判断するものだ」というものである。では、リーダーが自分の行動の影響力をもっとうまく評価し、その根本原因を理解するためにはどうすればいいのか。まずは3つの練習から始めるとよいだろう。
勇気を持って自己診断する
自分の行動を検証し、その動機を深く掘り下げよう。そこで強く推奨したいのが、ハーバード大学教授であるロバート・キーガンと同講師リサ・ラスコウ・レイヒーの著書『なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践』に基づく「勇気ある自己診断」だ。このモデルは、私たちの行動(あるいはその欠如)が、心理的に安全な職場環境の構築をじゃましていないか考えさせる非常に有効なツールになる。
自分が最もいらいらさせられる状況を思い浮かべて、その時、自分が非生産的あるいは報復的な行動を取っていなかったか考えてみよう。そして「自分は、安全な企業文化の構築を妨げる行動を取っていないだろうか」と、好奇心を持って自分に問いかけ、勇気を持って答えるよう自分に強いてみよう。
自分の非生産的な行動を自覚することは、それを改める第一歩だ。このように反省する姿を同僚に見せるのは、自分の弱さをさらすように感じるというリーダーは多い。その場合は、経験豊富なコーチの助けを借りれば、職場における自分の思考や行動について認識を深められるだろう。
陰湿な意図を見つける
陰湿な意図とは、意識的であれ無意識的であれ、エゴや自己保身のために行動することをいう。「役に立ちたい」とか「自分の部署を守りたい」といった自分の発言に、別の意図がないか自問してみよう。あなたの考えや行動は、どのような形で、チームメンバーをあからさまに、あるいは消極的に傷つけただろうか。自己保身に駆られて暴走したことはないか。自分のストレスから反射的に示した反応が、部下にネガティブなインパクトを与えてしまったことはないか。
エリザベスは成長中のIT企業で、誰が見ても重要な経営幹部の一人だった。だが、会社が何度か合併の対象になった時、「新しく来るリーダーにポジションを空けておかなくてはいけない」という理由で、何度も昇進を見送られてきた。彼女は、今後も自分の価値を証明し、チームをうまく統率したいと思うと同時に、自分の能力とこれまでの献身が報われるために、新しいリーダーが失敗してほしいとひそかに願うようになった。そして、その気持ちから解き放たれるために、コーチの助けを借りることにした。その結果、このネガティブな気持ちを抑えて、自分の部門により集中し、よりイノベーションをサポートできるようになった。
内集団と外集団を見極める
周囲の人たちに対する自分の考えや思い込みを振り返ってみよう。あなたに正直に意見してくれる人や、反対してくれる人は誰か。貴重な意見をくれる人は誰か。なぜそう思うのか。うまくいかないと感じる人は誰か。内集団と外集団の人の間にどのような共通点があるか。
自分のパターンを見つけることは、インクルーシブ(包摂的)で、誰もが100%貢献できるチームをつくるための重要な第一歩だ。ダンは、ある中堅企業のCEOで、定年退職に伴う経営幹部の交代について、これまでとは違うアプローチを取りたいと考えていた。新しいメンバーを迎え入れ、継続メンバーと結束力のあるチームをつくりたいと思った。そこで自分の内集団と外集団を見つめてみたところ、幹部チームの2人が外集団に属することがわかった。どちらもコロナ禍の時、幹部になったため、ダンが通常やってきた新幹部との一対一の時間を持てていなかったのだ。そこでダンは、この2人のそれぞれと一対一の昼食を月に1度、15分間のミーティングを週に1度持つことで、より意識的に人間関係を構築することにした。
リーダーが外集団と関係を構築するのを助ける戦略は数多くあるが、最も重要なのは、トップの人間がイニシアティブを取ることだ。
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陰湿な報復は驚くほど一般的で、職場に蔓延するおそれがある。そのような報復を標準的な慣行として容認している組織は、優れた人材を登用したり維持したりするのに苦労する。どのような形の報復もチームには有害だ。また、報復を容認する文化は、組織のミッションや、顧客やステークホルダーの要請に応える能力にもダメージを与えるおそれがある。組織は、何を称賛し、容認するかによって定義される。報復に関与したり、容認したりするリーダーは、個人にも組織にも永続的なダメージを与えかねない。従業員たちは、もっとよい報いを受ける資格がある。
*プライバシー保護のため、個人名はすべて仮名としている。
"Does Your Company Have a Culture of Quiet Retaliation?" HBR.org, July 05, 2023.