職場の透明性が向上したことも極めて大きな推進力となってきた。企業は昔のように物事を隠蔽できない。ある意味、透明性の向上は多少行きすぎともいえる。情報量が多すぎて処理しきれず、とてつもない背景雑音が発生しているからだ。要するに、企業はマイナスの影響を隠すことはもはやできない。遠いどこかの国にある自社のサプライチェーンで人権無視などの酷い事態が起きていれば、人々はそれに気づく。1970年代や1980年代には決してなかったことだ。

 この20年間、その種の酷いことを続けていると批判された企業はほぼナイキ1社だけだった。そしてナイキは人権を尊重するため大幅な改善策を講じることを余儀なくされた。現在、そうしたことはさらに発覚しやすくなっている。世界は以前よりはるかに透明度が高まっているのだ(この点については本書第3章でさらに深掘りする)。

 同時に、社会が豊かになるにつれ、個人は社会正義の問題をますます重視するようになる。人権問題、そして人権を無視することの代償は、ますます注目されるようになる。これはある程度、世代によって考え方の異なる問題でもある。若い世代は世界の状況を本当に重視している。

 私の知るあるリーダーは、個人的にはESGに懐疑的なのに、ESGを重視しているよう振る舞わざるを得ない、と話した。そうしないと社員全員にそっぽを向かれるからだという。このテーマに関する私の研究結果(本書第3章で扱う)によれば、会社がこうした問題を真剣に考えているかどうかを、あらゆるランクの社員が極めて重視している。こうした問題への対処を進めるよう会社の背中を押しているのは、幹部レベルの社員だけでなく、全社員なのだ。

 企業の社会問題への取り組みを見ていると、そうした行為が企業にさまざまな面でメリットをもたらすことがわかる。企業広報の面、イノベーションの面、そして見落とされがちなメリットとして、優れた社員の新規採用やつなぎ止めの面でもプラスになる。

 正反対のやり方、つまりミッションやパーパスを職場からいっさい排除するような経営をすると、結局は有能な人材や社員のモチベーションが圧倒的に枯渇することになる。私は仕事を通じてそうした事例をはっきりと見てきた。大学教授・研究者としてだけでなく、コンサルティング会社やテクノロジー企業を起こして世界中の企業幹部とじかに仕事をしてきた実践者として、そのような事例を見てきたのだ。職場に情熱とパーパスがあれば、イノベーションを生む原動力となる。一方カネがすべての職場では、仕事が無味乾燥で空虚になる。利益だけを重視する環境では、才能ある人材が胸躍らせて斬新なアイデアを追求するのではなく、狭い空間に押し込められたと感じて逃げ出そうとするのである。

結果が証明している

 ここまでくると、サステナビリティのとてつもない好循環と、本書の中核をなす議論が見えてくる。すなわち、パーパス主導型企業は業績が向上するのだ。その理由の一端は、サステナビリティ要素を事業の牽引役として活用する素晴らしい方法がいくつもあるからであり、また別の理由として、こうしたテーマを重視する企業では同じ価値観の社員が奮起し、より熱心に働くようになるからだ。

 一方で、個人がミッションとパーパスにすべてをかけようとすると、犠牲が大きくなるケースもよくある。前述したレイニール・インダールがその典型だ。業績絶好調の企業を辞め、取る必要のなかったリスクを取ることになった。だが、それによって得られる見返りが変わるのだ。自分が誇れるもののために日々貢献していると感じられるなら、個人が得る見返りははるかに大きくなる。

 スティーブ・ジョブズは2005年、スタンフォード大学の卒業式の祝辞で次のように述べた。「心から満足する唯一の方法は、素晴らしいと思える仕事をすることだ。そして、素晴らしい仕事をする唯一の方法は、自分の仕事を愛することだ」。まさにこれこそ、パーパス主導が大切な理由であり、企業の役割がただのビジネスを超えるものでなければならない理由である。

将来への期待を込めて

 本書第2章では、過去半世紀で人々の考え方や行動がどのように変化し、今の若い世代──いわゆる〝インパクト世代〟──が企業のサステナビリティに関する意思決定にいかに大きな影響を与えているかについて掘り下げていく。彼らは消費者としても、社員としても、前の世代なら見逃したであろう程度の企業の悪行であっても、それに目をつむったり受け入れたりはしたくないと考えている。〝企業は利益追求だけでなくもっと大きなパーパスを持ってもいいのかもしれない〟という社会全般の気づきと相まって、こうした若い世代の「それ以上のことをしたい」「より大きなものに貢献したい」という個人的な強い思いが、現代社会に起きている変化の大半を推し進めているのだ。

『PURPOSE+PROFIT パーパス+利益のマネジメント』

[著者]ジョージ・セラフェイム [訳者]倉田幸信
[内容紹介]
企業の善行と利益は両立する--企業がよいインパクトを社会に与えるための戦術的方法や、こうした社会的変化によって可能になった価値創造の6つの原型、これからの投資家の役割など、ロードマップとベストプラクティスを提示。ESG投資の世界的権威、ハーバード・ビジネス・スクール教授が示す未来への道。

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