誰を自分のスペースに入れるか、明確な線引きをする

 誠心誠意尽くしてくれる同僚や友人でさえも、あなたが自分自身の能力に疑念を抱くきっかけをつくる可能性がある。同僚の中で、あなたの気持ちを高揚させてくれるのは誰か。あなたの気分を害するのは誰か。あなたの足を引っ張る人は、避けるようにしよう。その線引きを明確に行い、妥協しないことが重要だ。

 ザ・エッセンシャリズム・アカデミー創設者のグレッグ・マキューンは、“The Emotional Boundaries You Need at Work” (職場で必要な感情の境界線)と題した記事で、その線引きを行う方法を紹介している。マキューンはこう述べている。「仕事でも家庭でも、有意義で成熟した人間関係を築くためには、2つのフィルターを設けるべきだ。1つ目のフィルターは、あなたをほかの人たちから守るためのもの。2つ目のフィルターは、ほかの人たちをあなたから守るためのものである」

 別に、孤独な隠遁生活を送れと言っているわけではない。重要なのは、あなたの精神を高揚させてくれる人とだけ付き合うことだ。たとえそのような人が1人しかいないとしても、そうすべきである。このような強固な境界線を永遠に維持する必要はない。しかし、調子が出ない時は、自分の足を引っ張る可能性がある人は避けたほうがよい。そのためには、ソーシャルメディアからしばらく離れたほうがよい場合もあるだろう。

感謝することをやめて、自分の強みに目を向ける

 感謝の気持ちを抱くと、気分がよくなるし、うまくいっていることに目が向きやすくなる効果がある。しかし、気持ちが落ち込んでいる時は、「感謝する」ことが過度に重い負担に感じられる場合もある。

 感謝すべきことのリストをつくるのではなく、1日の終わりにその日の行動を振り返り、うまくいったことについて自分をほめてみよう。「カフェでバリスタに笑顔で接した」とか、「上級幹部の集まる会議で、有意義な知見を提供できた」といった簡単なことでもかまわない。少なくとも1日に3つのことをリストアップしよう。こうして自分が取った好ましい行動のリストが増えていくと、自信が高まり、前進するための勢いがつく。

うまくいっている点を評価する

 成果が上がっていないように思える時は、どうにかしなくてはならないという思いを抱くかもしれない。しかし、往々にして、このような時に行動は必要ない。行動しなくてはならないと強く感じる時は、その衝動を抑えたほうがうまくいく。じっと座ったまま、何もしないようにしよう。筆者は多くのクライアントに対して、スケジュール帳に記入してあらかじめ時間を決めておいて、何もしない時間を確保するよう勧めてきた。たとえば、ファッション雑誌を読んでのんびり過ごし、仕事のことを考えない時間を持ってもよい。あるいは、前の週にうまくいった会議のことを思い返してもよいだろう。

 重要なのは、精神を平穏な状態にして、うまくいっていることを少なくとも一つは意識することだ。よいことは意識的に探さなければなかなか目につかず、「何もうまくいかない」というネガティブな思い込みから抜け出せなくなる。私たちは日々、うまくいっていない点に気づいて気落ちすることが多い。その半面、うまくいっている点には目が向きにくい。そこで、毎日、うまくいっていることを3つ見つけて書きとめる習慣をつくるとよい。

他人の成功を見ても、恥ずかしく思わないようにする

 時には、自分のことばかり見ず、自分以外の人たちの成功に目を向けることも重要だ。しかし、彼らと自分を比べ、ほかの人を自分の成功の度合いを測る物差しにする必要はない。それよりも、ほかの人たちの成功を、自分を前に進ませるための原動力にすればよい。「あの人にできるのであれば、きっと私にだってできるはず」という発想で考えてみよう。

 以前、筆者が仕事をしたクライアントの中に、ユーチューブで動画を見て、モチベーションを高めるのが好きな人物がいた。「勝利」(具体的には、セールスの成約)が必要な時は、アメリカンフットボールのスター、トム・ブレイディの動画をユーチューブで見ているとのことだった。ブレイディのやる気とモチベーション、ハードワークに触れることにより、自分の気持ちを高めて、「私も勝てる」と自分に言い聞かせていたのだ。

視野を広げる

 いま気分が落ち込んでいるとすれば、身をかがめて難局が去るのを待ち、最小限のことしかしたくないと思うかもしれない。しかし、それよりも好ましいのは、物の考え方を根本から転換させ、自分を変えることだ。

 INSEAD教授のネイサン・ファーと起業家のスザンナ・ハーモン・ファーは著書The Upside of Uncertainty(未訳)の中で、フランスに移住して新しい環境で成功する方法を学ぼうとする過程で経験した、気持ちの浮き沈みについて述べている。この著書によると、重要なのは、リスクをコントロールしようとするのをやめることだ。それよりも、好ましい変化を生み出すのに適した環境をつくるには、どうすればよいかと考えたほうがうまくいくという。ネイサンとスザンナは、克服できないように見える試練に直面した時、それでも前に進み続け、新しい可能性を模索したのである。

 勝利を手にしたり、プロジェクトを前進させたりすることができないように思える時は、思考様式を調整したほうがよい。覚えておこう。どんなにささやかな成功でも、あなたを前進させる力を持っている。また、メンターや同僚を頼り、否定的なことを言う人たちを遠ざけよう。こうしたポジティブな行動を繰り返すうちに、やがてあなたは前に進めるようになる。そして、小さな勝利がいくつも積み重なることにより、いつか大きな勝利がもたらされるのだ。


"Keeping Your Spirits Up When You Really Need a Win at Work," HBR.org, July 13, 2023.