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リーダーに必要な3つの能力
ロビンは、高い成果を上げ続けて、ついにリーダー職の地位に昇進した。しかし、最初の数カ月は、予想していた以上に過酷だった。さまざまな業務に忙殺され、日々トラブルの火消しに追われた。同僚たちが周りで冗談を言わなくなったことも、ロビンを苦しめた。
やがて成績優秀な部下が他社に移籍すると、チームのリソース不足が顕在化した。ロビンは業務の重圧を感じるようになり、週末を迎えるたびに月曜の朝がやって来るのを恐れるようになった。「自分はリーダーに向いていないのではないか」という気持ちに苛まれていた。
これは珍しい話ではない。新人マネジャーの60%は、就任後24カ月の間に失敗を経験する。初めてマネジャー職に就いた人だけでなく、新たに企業幹部になった人も同様の経験を味わう。新人企業幹部の50~70%も、最初の18カ月の間に失敗を経験するのだ。
筆者らの所属するニューロリーダーシップ・インスティテュートの研究によれば、リーダーとして成功するためには、3つの中核的な領域で傑出する必要がある。具体的には、未来を強く意識すること、人にやさしく振る舞うこと、そして成果を上げることである。
問題は、リーダーとして成長する過程で、私たちの脳がその能力の発揮を妨げる形で発達してしまうことだ。大組織でよく用いられている何十種類ものリーダーシップ開発プログラムを分析したところ、3つの領域すべてを伸ばすものがほとんどないことがわかっている。脳が私たちの足を引っ張る理由を理解すれば、そうした傾向に抵抗することが可能になる。
未来を考えて行動できない
リーダーは、目の前の仕事を片づけることだけをよしとせず、次にどんなことが起こるかにたえず目を光らせ、チームがその状況に対応するための準備をしっかりとしなくてはならない。しかし、そうしたことは脳の基本的な機能に反する。
脳は、目の前のことと近い将来のことを重視するように進化してきた。ある研究によると、米国人の27%は、5年先のことを考えることがほとんど、あるいはまったくないという。
これはゆゆしき問題と言うほかない。業界のトレンド、未来に必要とされるスキル、顧客のニーズを予測することは、リーダーが成功するために欠かせないからだ。
経営コンサルタントのエリオット・ジャックによると、組織における地位が高くなればなるほど、より遠い未来について考えることが必要になるという。ラインマネジャーは四半期単位の計画を立てるだけで十分かもしれないが、CEOは10年先のことを考えなくてはならない。ジャックは、この点を「タイムスパン」という言葉を使って説明している。
しかし、未来について考えることは、どんなに順風満帆な時でも容易でない。考えなくてはならないことが増えれば増えるほど、小さなシグナルに気づきにくくなり、未来に起こりうるシナリオに意識が向かなくなる。また、いわゆる「近接性バイアス」とも戦わなくてはならない。このバイアスにかかると、遠い未来のものごとよりも、近い未来に関するアイデアや意思決定を重んじてしまうからだ。
調査した企業幹部向けのリーダーシップ開発プログラムのうち、未来について考える能力を養うことに力を入れていたものは、16%にすぎなかった。中級レベルのリーダーや、はじめてリーダー職の地位に就く人を対象とするプログラムでは、この割合がさらに低く、それぞれ4%と6%に留まっている。
もっとも、悲観する必要はない。研究によると、未来について考え、未来のことを予測する習慣は、学習して身につけることのできるスキルだという。トレーニングを通じて習得できる──そして習得すべき──認知スキルのひとつなのだ。そのための方法に毎月、時間を確保して、3~6カ月後にチームをどこに導きたいかという「未来の状態」を思い描くというものがある。そのビジョンから逆算する形で、目的地にたどり着くためにチームが何をすべきかを考えればよい。
部下に優しく振る舞えない
リーダーには、いくつもの課題に同時並行で対処することが求められる。しかも、それらの課題は互いに衝突する場合が多い。たとえば、リーダーは、成功を生み出すために有効なビジネス戦略を実行しなくてはならない。同時に、メンバーとつながり、そのモチベーションも高めなければならない。
この2つの課題は、しばしばぶつかり合う。人がリーダーに抜擢される時はたいてい、対人関係能力が評価されるのではなく、業務処理能力が評価される。社会認知神経科学者のマシュー・リーバーマンに言わせれば、高度な業務処理能力と対人関係能力を併せ持っているリーダーは、伝説上の生き物であるユニコーンのような珍しい存在だという。
リーバーマンが紹介している研究によると、もっぱら成果を上げることだけを考えて行動していると思われているリーダー(分析能力が高く、問題解決と前進することへの強力なモチベーションを備えている人物)が「優れたリーダーだ」という評価を得るケースは、全体の14%に留まる。また、対人関係スキル(コミュニケーションのスキルや、ほかの人の身になってものを考えるスキルなど)にだけ長けているリーダーの場合は、全体の12%にすぎない。
それに対し、成果を上げることと対人関係スキルの両方で強力な人物は、優れたリーダーとして評価されている割合が72%に跳ね上がる。
では、そうした類稀なる「ユニコーン」は、実世界にどれくらい存在しているのか。本稿の筆者の一人(デイビッド・ロック)は、マネジメント・リサーチ・グループのトリシア・ナダフCEOとともに、何千人もの従業員がその上司の目標重視の度合いと人間重視の度合いについて評価したデータを分析した。すると、この両方で高い評価を受けているリーダーは、全体の1%に満たなかった。
背景には、神経学的な理由がある。脳の画像検査を用いた研究によると、目標を重視することと人間を重視することに関わる脳の部位はそれぞれ異なり、両者の間で言わばシーソー現象が起きているという。片方の脳の部位が活性化されると、もう片方の部位の活動レベルが低下するのだ。
しかも、ほかの研究によると、大きな権力を持っている人ほど、目標重視に関わる脳の部位が優位になる。これは、その人の置かれた状況に適応した結果とみなせる。リーダーとして有効な意思決定を行うためには、一人ひとりのメンバーのニーズに囚われず、メンバーをチェスの駒のように扱わなくてはならないからだ。
重要なのは、目標重視と人間重視の間で適切なバランスを取ることだ。しかし、筆者らの研究によると、企業幹部向けのリーダーシップ開発プログラムのうち、対人関係を重んじているプログラムの割合は58%にすぎない。中級レベルのリーダーや、初めてリーダー職の地位に就く人が対象のプログラムでも、この割合はそれぞれ64%と51%に留まっている。リーダーが適切なバランスを取るためには、メンバーを大切にしているというシグナルをもっと意識的に発する必要があるのかもしれない。