現実離れした成果を追求してしまう
リーダーが成功するうえで、とりわけ厄介な要素の一つは、権力を持つことによる思考様式の変化だ。私たちの脳は、みずからが権力を持っていると感じれば感じるほど、楽観的な考え方をする傾向がある。
その結果として、現実離れした目標を設定したり、過度に大きな期待を抱いたりしがちになる。この状態に陥ると、リーダーと、実際に業務を行うメンバーたちの間に亀裂が生じるケースが多い。
こうして、「ビジョン重視」で、細部にあまり関心を払わないリーダーが出現する。自分が権力を持っていると感じると、私たちの脳はポジティブな反応を示し、お金やほうびを得た時と同じような快感を得る。
するとすぐに、より多くの快感を得ようとし、権力を振るわずにいられなくなるのだ。物事の細部に気を配るのではなく、大きな構想を描いたり、大きな目標を追求しようとしたりする。このような脳の性質を理解すれば、対策を取ることができる。自分以外の視点を得るように努め、現実を理解する。あるいは、メンバーの幸せにつながる人間重視の目標を設定することで、この衝動に打ち勝つことができるのだ。
たとえば、あなたが新規プロジェクトに着手して、その完了まで3週間かかると考えているとしよう。この場合、日々の実務を担う人々の意見を聞き、質の高い成果につなげるために必要な期間について考えをすり合わせることだ。場合によっては、そのスケジュールを見直すつもりで聞かなくてはならない。
冒頭で紹介したロビンにとって幸いだったのは、勤務先の会社が質の高いリーダーシップ開発プログラムを導入していたことだった。そのプログラムは、本稿で論じてきたリーダーシップの3つの要素のバランスを取るものだった。
ロビンは、6カ月のプログラム期間中にさまざまな気づきを得て、チームを機能させるために必要なことについて理解を深めた。未来を見据えて、リーダーシップのさまざまな要素と日常的な業務上の戦術的ニーズとのバランスをうまく取る方法を学ぶことができた。
私たちの脳は、もともとリーダーとして成功するためにつくられてはいないのかもしれない。だが、科学的知見に基づいた適切なトレーニングを行い、好ましい習慣を身につけることで、リーダーは──トップレベルのリーダーから現場レベルのリーダーに至るまで──不安なく月曜の朝を迎え、前進し続けることができる。
"3 Ways Our Brains Undermine Our Ability to Be a Good Leader," HBR.org, July 25, 2023.