営業の場で、最も影響力のある人は誰か

 主な意思決定者や影響力のある人、該当する領域のエキスパートは、取引の決断が下された後になって初めて明らかになることがよくある。取引が成立した場合は、それが誰かがわかると、ソリューションの適用に向けて備えることができる。不成立の場合は、誰の声が強く影響したのかを知ることによって、今後の営業活動で影響力のある人に早めに対処できるようになる。

 影響力のある人物と価値のストーリーに注目して、より俯瞰的に失敗を分析すれば、営業チームは拒絶された痛みを乗り越えて前進できる。

 振り返りにおいて、恥と非難が渦巻く環境では、有意義な知見はほとんど生まれない。むしろ、次回はどのようにやり方を変えられるかに集中しよう。

 前述のフィンテック企業が顧客の意思決定者をよく調べてみると、最終決断を下したのはCIOだったことが明らかになった。ほとんどの営業訪問はユーザーグループが相手だったが、取引不成立の要因となった、商品の特徴を見出したのはCIOだった。

 このことがわかると、セールスイネーブルメント(営業活動の改善の取り組み)では、営業チームがCIOへアプローチするスキルを向上させるためのトレーニングが追加された。マーケティングチームは、自社の商品がCIOの典型的な課題に対処できることを示す新しいスライド資料を作成し、財務チームは、自社の商品が長期的には差し引きでプラスになることを示すモデルを開発した。

価格以外で、何がクライアントの重要な決定要因になったか

 チームが取引に失敗した時、価格のせいにするのは簡単である。クライアントが価格以外の何を理由として判断したのかをチームに考えさせると、ソリューションの全体的な価値を振り返ることができる。また、自社の商品が市場でどれだけの競争力を持つかを、より広い視点から見ることができる。

 この質問は、取引が不成立だった場合は、チームが今後、細かい部分までより綿密に調整し、スキルを向上させるのに役立つ。逆に、成立した場合は、価格以外の勝因を分析することでチームの自信が高まり、今後、余裕を持つことができる。

 買い手自身に、価格以外のどの要因が決定に影響したのかを尋ねるのもよい。案外、顧客は分析を求められるまで、決定に至る思考を導いた微妙な事柄に気づいていないかもしれない。

 上述のフィンテック企業のチームは失敗の後、クライアントを訪ねて、競合相手を選んだ理由を尋ねた。そのおかげで、チームはどのように商品の違いが認識されているかについて、詳しい情報を得られた。もう一度売り込もうとするのではなく中立的な会話をして、クライアントが情報を提供しやすい環境をつくった。敗北の痛みはまだ消えていないにしろ、クライアントから直接得た深い洞察は、チームがその後、商品を調整するのに役立った。

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 営業の振り返りを行うメリットは明白であるとはいえ、難しいのは、それをいつやるかを見定めることだ。

 組織は四半期の間に何百件、何千件もの取引を抱えることがあり、そのすべてが振り返りに値するわけではない。四半期末にまとまらなかった大型案件に限定する誘惑にも駆られる。しかし、筆者らの経験によれば、その時点ではまだ感情がたかぶっているので、たいてい、振り返りの効用は小さい。

 それよりも、各四半期にアカウントエグゼクティブ一人につき、最低一回の振り返りをすることが、営業リーダーにとって役立つことがわかっている。そうすることで、チームは会社の複数の部署にとって価値のある情報を収集できる。だが、おそらく最も重要なのは、この方法を続けることで、営業チームが振り返りとは関係なく、成功と失敗の原因を考えるように訓練されることだろう。

 リーダーが振り返りにどの取引を選んだとしても、振り返りがない状態から2~3件になることは相当な進歩であり、Go To Market(GTM)戦略を変えるような知見がもたらされるだろう。上述のフィンテック企業は営業活動をより深く振り返ったことにより、商品を微調整し、営業チームのスキルを向上させ、主要な買い手に対する存在感を強めることができた。

 ほとんどのリーダーにとって、このフィンテック企業のケーススタディで達成されたようなインパクトを推進するには時間がかかるだろう。しかしその過程で、アカウントエグゼクティブは話を聞いてもらえたと感じ、営業チームの活動はより効果的になり、GTMチームはより適切に営業を支えるようになる。最終的に、リーダーは小さな敗北を大きな勝利に変えられるだろう。


"3 Questions Sales Teams Should Ask After Losing (or Winning) a Deal," HBR.org,July 24, 2023.