D2C革命は始まっている

 ほぼ4分の1(24%)の企業が、2023年にD2Cチャネルを追加している。このチャネルを利用するブランドのうち41%は、B2C製品企業だ。

 なぜブランドはD2Cチャネルに移行しているのか。第1に、最も重要なのは、D2Cによって、企業が顧客のオンライン上の行動やニーズについて貴重な生のインサイトを収集できることだ。このような機会は、消費財を扱うような企業に、長く欠落していた。こうしたファーストパーティデータは、サードパーティデータへのアクセスに関するプライバシー規制が世界中で強化されていることを考えると、これまで以上に重要である。

 第2に、D2Cによって企業は新しい戦略を試し、貴重なフィードバックを収集できる。賢く利用すれば、このような実験から、より効果的で効率的な戦略が生まれるはずだ。

 第3に、D2Cは、企業がブランドでの顧客体験をコントロールできることを意味する。これは、チャネル体験を通じてメリットを提供している高級でユニークなブランドにとって、特に重要になる。

 これらの理由を考えると、消費財企業の55%がD2Cを導入しているのも意外ではない。B2Cサービスは過去最大の躍進を遂げており、2022年の15%から2023年には45%に増えた。

 テスラは、D2C革命を全面的に受け入れている。同社はオンラインのプラットフォームと、米国の主要都市にある小売店の全国ネットワークを通じて、顧客に直接販売している。従来の自動車ディーラーを迂回することによって、多くの消費者が不快に感じる販売体験(および原価に一定のコストや利益を上乗せした販売価格)を自社がコントロールできる。

 この分野に参入する前に、企業が検討すべき要素が2つある。まず、D2C戦略を分析して実行するための強固なデジタルフットプリント(インターネット上に残される個人に関する情報)があるかどうかだ。D2Cモデルがプラスの利益をもたらすために、デジタルマーケティングやソーシャルメディア、データ分析のスキルに依存することを考えると、この要素は重要である。もう一つは、このダイレクトなチャネルによる顧客とのやり取りが増えても、対応できる顧客サービス体制を整えているかどうかだ。

 流通などの仲介業者は、パートナーが消費者に直接販売することを防ぐために、マーケティング、在庫、ロジスティックスなどの付加価値サービスを提供するとよい。また、顧客データと分析を共有することによって、組織間の長期的かつ互恵的なパートナーシップを育むことができる。

 もう一つ強力なパートナーシップ戦略として、カテゴリーを横断する視点に立って、新製品や店頭での広告・販促戦略、さらには潜在的な買収ターゲットに関する助言を、主要なパートナーと共有することができる。重要なのは、価値を提供することだ。

ゲーミフィケーションは十分に活用されていない

 リワード、ポイント、コンペティションなどの楽しいインタラクションを通じて、買い物など顧客とのやり取りをゲーミフィケーションする(ゲームの発想を応用して顧客を惹きつける)チャネルの規模は、2020年の91億ドルから2025年には307億ドルに成長すると見られる。実に237%の増加だ。

 それにもかかわらず、デジタルチャネルにゲーミフィケーションを組み込んで販売に活かしているマーケターは4.8%に留まる。部門別ではB2C製品企業(13%)と、売上高100億ドル以上の企業(23%)が他を上回っている。

 ゲーミフィケーションがブランドの成果にもたらす効果については、まだ大規模な調査が行われていない。しかし、ブランドのロイヤルティプログラムによって、顧客が競合他社よりもそのブランドを選び、より高い価格を支払い、支出額を増やす可能性が高まることは、実践している企業の調査からも明らかだ。ゲーミフィケーションはこうした効果をさらに高めるだろう。したがって、ゲーミフィケーションに関する低い数字は、多くの企業がチャンスを逃していることを意味する。

 ゲーミフィケーションを機能させるカギは、ブランドとの適合性だ。たとえば、ウェアラブル端末フィットビットのエクササイズの到達目標や友好的な競争は、消費者が自分のデバイスからより多くの恩恵を得ることを促し、より多くの製品を購入して友人に勧めるようになるだろう。

 また、ゲームは魅力的でありながら、低価格もしくは無料でなければならない。これらの要件のいずれかが欠けても、既存顧客や潜在顧客は参加しないだろう。したがってマーケターは、何が顧客の動機付けになり、彼らを喜ばせるかを理解して、小規模な実験を通じてさまざまなアプローチを試し、これらのコストと利益を評価する必要がある。

 B2B企業にとって、ゲーミフィケーションは手ごわい課題である。筆者らの調査によると、B2C企業の13%がこの戦略を採用しているのに対し、B2B企業は1%しか採用していない。営業販売など、B2Bの顧客にサービスを提供する従業員にゲーミフィケーションを活用することは、このプロセスを開始する最も簡単な方法だろう。

 一般的にやや退屈なものになりがちなウェビナーに、ゲーミフィケーションを導入することもできる。これにより、セミナーに参加している潜在顧客に対し、セールストークに注意を向けさせることができるかもしれない。

新しいチャネルを戦略的に評価して展開する

 パンデミックは、間違いなくマーケターのチャネル戦略のアプローチを変えた。成功への道は一つではない。かつてないほどチャネルが増えたいま、マーケターは、どのチャネルが明確な価値をもたらすかを見極めて、ほかのチャネルを手放すことも必要になる。競合他社が参入しているからという理由で手を出したくなるチャネルもあるだろう。しかし、顧客の時間と関心は限られている。マーケターは、どのチャネルで最大の効果を発揮できるかを戦略的に判断しなければならない。


"How the Pandemic Changed Marketing Channels," HBR.org, August 01, 2023.