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顧客のためを考えて判断を下す
生成AI(人工知能)アプリケーションの急増は、刺激的なイノベーションと消費者による実験を促進している。だが同時に、データのプライバシーや、ボットを通じてしか企業とコミュニケーションできないことを懸念する多くの人々を不安にさせている。顧客とのインタラクション(やり取り)とデータプライバシーが非常に重要である銀行やヘルスケアといった業界では、こうした懸念は特に強い。
画期的なテクノロジーはある程度の不安を伴うのが一般的であり、人間の知能に似たテクノロジーに対して懸念を抱くのは自然なことだ。ただし、新たな大規模言語モデルが台頭する中で、ほとんどの企業は、モデルのリスク、モデルの出力の正確性、データの倫理的な使用を、リスク管理の枠組みの中心に据え、責任を持って新しいAI技術を使うことを徹底しようとしている。
一方、あまり認識されていないリスクがある。長期的な顧客ロイヤルティを育むためではなく、短期的に価値を引き出すよう設計されたモデルやボットに、企業が顧客体験を委ねてしまうことだ。
従来のAIと機械学習モデルに生成AIを組み合わせ、より人間に近い形でメッセージや提案を届ける企業が増えていくかもしれない。私たちが注意していなければ、利益を追求するボットやアルゴリズム、予測モデルは、本当にディストピア的な体験をもたらしかねないのだ。
AIの世界においても、顧客愛を優先しなくてはならない。顧客センチメントを測定する従来の指標、たとえばネット・プロモーター・スコア(NPS)などは形が変わり始めるかもしれないが、変わらず残り続ける前提が一つある。それは、すべてのインタラクションは、その企業に対する顧客のイメージを良くも悪くもさせるということだ。
顧客の生活を豊かにすることを目標に企業が個々の判断を下せば
実際、スタンフォード大学とマサチューセッツ工科大学の研究者らが先頃発表した研究結果によれば、AIベースの対話型アシスタントツールを複数の国で5200人のカスタマーサポート担当者に配備したところ、好ましい効果が示された。担当者の生産性が平均14%向上し、AIを用いたやり取りのほうが平均NPSが高く、担当者の月間離職率も9%減少した。
個人に合わせる
顧客愛を中心に据えたAIを実現するには、目的関数を根本から考え直す必要がある。既存のアルゴリズムの大半は、体験全体ではなく特定の時点でのROI(投資利益率)を中心に最適化を行う。顧客とのエンゲージメントにAIを活用すれば、企業は個々のインタラクションからより多くを学び、顧客に価値をもたらす方法をより多く見つけることが可能になるかもしれない。
これはよい兆候である。なぜなら、顧客はよりパーソナライズされ自分に見合った体験をますます望んでおり、そのお返しとして自分のデータを共有することに前向きになっているからだ。