ベイン・アンド・カンパニーが11カ国の銀行顧客およそ3万人を対象に実施した最新の調査では、銀行によって体験がパーソナライズされていることに同意した回答者は、より高いNPSで銀行に報いる傾向が強かった。銀行が顧客個人に関する知識に基づいてやり取りをしていることに強く同意する回答者と、まったくそう思わない人との間では、NPSに123ポイントの差があった。

 AIでパーソナライゼーションを向上させる方法の一つは、顧客に対応するデジタルアシスタントの活用だ。この新たな取り組みは、銀行取引と決済においても見られる。

 カナダロイヤル銀行は、ノミ(NOMI)というAI搭載アシスタントを用いて、顧客向けにデジタルでのお金の管理をパーソナライズしている。顧客へのタイムリーな助言の通知、パーソナライズされた予算管理、支出行動とキャッシュフローに基づく貯蓄の提案といった機能がある。

 リリース後の1年で、有望な結果が示された。ノミを使う顧客は顧客基盤全体に比べてデジタルのインタラクションが50%多く、金融口座の利用時間が93%長かった。解約率は、同業他社の8%に対してノミ利用者は2%であった。

 生成AIのデジタルアシスタントはまた、従業員が顧客とのつながりを強化できるよう支援し、人間味が差別化の源泉となりうる場面を補強している。

 一例としてモルガン・スタンレー・ウェルスマネジメントは、同社の数千人に及ぶファイナンシャルアドバイザーにAIアシスタントを導入している。顧客にパーソナライズした手厚いサポートを提供できるよう支援するためだ。このAIアシスタントは、検索とコンテンツの作成を組み合わせて実行するため、ファイナンシャルアドバイザーはいつでも個々の顧客向けに適切な情報を迅速に見つけ、カスタマイズできる。

 大規模言語モデルは、パーソナライゼーションに新たな時代をもたらすだろう。機械学習技術はすでに、各顧客のデジタルインタラクションのパターンを、個別の「行動の指紋」に変換している。最近のAIの進化によって、いまでは音声やテキストでのやり取りも、これに含めることができる。

従業員による顧客支援を助ける

 企業はまず、組織を生成AI技術に慣れさせるため、取り組んで後悔のない、限られた用途から始めるべきだ。典型的なものとしては、顧客体験を提供する従業員の支援にAIを用いることだ。このような場合、モデルの出力を人間がしっかり吟味できる。

 例として、リレーションシップマネジャーに対し、最近の顧客とのエンゲージメントに基づいて会話のテーマを提案したり、経済的困難に直面している顧客からの回収を処理するための具体的な行動を提示したりすることが挙げられる。

 今後は、従業員の標準的な業務手順にAIを組み込む用途が増えていくだろう。有望な用途として、顧客からの問い合わせに際し、その問題を処理するのに最適な担当者を予測して割り当てたり、リレーションシップマネジャーにリアルタイムでスクリプトを提案したりすることが挙げられる。AIが顧客との通話をリアルタイムで聞き、そのやり取りが自社と顧客の関係を有益なものにしているのか、それとも無益なものにしているのか、担当者が把握できるよう助ける。

 ほかにも近い将来に従業員を支援する機能として、顧客の好きな趣味を想起させる画像やテキストを用いてパーソナライズした提案を生み出したり、顧客の重要なライフステージで連絡をするよう、リレーションシップマネジャーにリマインドしたりすることが考えられる。

 小売りなどごく一部の業界では、完全にAI化されたフロントラインが、顧客への直接的な自動対応をサポートし始めている。

 このデジタルフロントラインはやがて、人間による従来のフロントラインと同じように思慮深い共感を持って、サービスを提供できるようになる。ボットが顧客と交流し、最も優れた従業員が常に実践してきたのとまったく同じように、適切な商品と情報を提供することを学んでいく。AIの最適な利用は、体験全体の完全な再構築につながる可能性さえある。

 高インフレで経済が厳しい時期には、コスト削減と効率性向上のためだけに生成AI技術を使いたくなるマネジャーもいるかもしれない。それは見当違いである。生成AIは多くの業界でコストを押し下げる可能性がある。とはいえ、最大の価値は、顧客の生活を豊かにすることに重点を置く企業にもたらされるのだ


"Using AI to Build Stronger Connections with Customers," HBR.org, August 01, 2023.