リーダーシップを定義する
はじめに、上級リーダーは自社における優れたリーダーシップとはどういうものかを明確にして、リーダーシップへの期待に関する共通の言語をつくり出す必要がある。そのために、以下の問いについて検討しよう。
・最高のリーダーは何に成功しているか。
・今後、リーダーは何に優れている必要があるか。
・リーダーがモデルとなり、強化することが期待されている企業文化の独自性や特徴は何か。
インテュイットでは、リーダーシップをめぐる共通の言語がエグゼクティブだけでなく、あらゆるレベルのリーダーに関連があり、適応できることを重視した。また、「覚えやすく復唱しやすい」言葉にしたかったので、過度に規範的あるいは複雑にならないようにした。最終的には、次の3つのコア能力に絞って定義した。(1)明確なビジョンを持ってリードする。(2)ハイパフォーマンスの文化を構築する。(3)勝利という結果を出す。
次のステップは、リーダーシップの枠組みを構築することである。インテュイットには「リーダーシッププレーブック」と呼ばれるものがあり、それぞれのコア能力を支える3つの行動が盛り込まれている。「人々を育成しパフォーマンスを加速させる」などの多くの行動はベストプラクティスであり、ほかの多くの企業や業界での望ましい行動と類似している。一方、「顧客の問題に焦点を合わせ続ける」などの行動は、当社独自の優先事項と価値観を反映している。
こうした行動を成文化したことは、リーダーへの期待を明確にし、現実のリーダーシップの課題に取り組む枠組みとして役立っているというのがリーダーたちからの一貫したフィードバックである。
リーダーシップのモデルになる
もしあなたが上級リーダーならば、会社の文化とリーダーシップへの期待を一致させるのに最も影響力ある行動は、あなた自身が会社のリーダーシップ行動のモデルになることである。シェインが示唆するように、あなたの行動は文化の形成に圧倒的に大きな影響力を持つからだ。
インテュイットではそれを促進するために、まず会社のトップが先陣を切り、続いて最上級リーダーがリーダーシップ開発の取り組みの多くに着手した。年次リーダーシップ会議で初めて「リーダーシッププレーブック」を導入した時、CEOのササン・グダルジとそのスタッフは、前CEOで当時の取締役会長のブラッド・スミスとともに、プレーブックの行動を実践した体験や、独自のリーダーシップスタイルの採用により、行動が変わることを語った。最上級リーダーが組織の構成員のために温度感を示したのだ。そうした彼らの行動は、言葉よりもはるかに勝るもので、彼らが重要と信じているものを示すことにつながった。
また、リーダーがリーダーシップ行動のモデルになっているかどうかについて自己認識を高めるための支援も試みている。エグゼクティブ能力開発プログラムの一環として、リーダーはチームやマネジャーから、どの程度「リーダーシッププレーブック」を実践しているかについてフィードバックをもらう。そして、リーダーはそのフィードバックに基づいて、リーダーシップ行動を常に強化し、実践できるように能力開発の目標を設定する。
リーダーシップを教える
インテル前CEOのアンドリュー S. グローブは著書『ハイアウトプット・マネジメント』(日経BP、2017年)で、「経営管理のテコ作用」という概念について述べている。これは、組織のアウトプットを高めるためにリーダーが取る行動のことである。研修は「マネジャーが行える最もテコ作用が大きい行動の一つ」とされている。
インテュイットでは、リーダーシップ開発の文化を構築する取り組みの一環として、リーダーがリーダーシップを教える機会を逃さず、いかにつかむかを訓練している。それは公式の機会に組み込まれることもあり、たとえば、ほぼすべての研修プログラムは、少なくとも部分的にリーダーが教師としてリードするように設計されている。こうした機会を組み込むことによって、リーダーがみずから情熱を抱くテーマについて教え、自分の経験や観察から得た教訓を伝えることができるようにしている。
教えることは、リーダーの日常的な会話や一対一のミーティング、チームミーティングなど、非公式の機会でも実践されることがある。リーダーはリーダーシップ哲学を築くことを奨励されている。リーダーシップ哲学とは、ミシシッピ大学ビジネススクール教授でリーダーシップの専門家であるノエル M. ティシーが「人に教えることができる視点」と呼んでいるものである。インテュイットでは、リーダーが自分なりの「人に教えることができる視点」を形成するため、以下を自問することを勧めている。
・リーダーシップについての自分の視点に影響を与えたのは、どの経験または観察か。
・自分の経験から、どのような教訓を学んだか。
・その教訓を、原則や具体的なアドバイスにするには、どのように文章化したり簡素化したりできるか。
2022年度は、エグゼクティブバイスプレジデントの100%、そしてシニアバイスプレジデントの88%が学習体験を促進することができた。当然といえば当然だが、リーダーシップ開発プログラムへの出席数、エンゲージメント、コミットメントは比較的高い。「リーダーシッププレーブック」導入後の最初の1年間で、バイスプレジデントの95%が最初のエグゼクティブ用プログラム、バイスプレジデント・リーダーシップ・ラボに自発的に参加した。
リーダーシップを評価し、強化する
リーダーシップ行動を定着させるには、人材およびパフォーマンスに関するシステムやプロセスを通して体系的に強化する必要がある。パフォーマンスのシステムと推進する行動が一致しなければ、リーダーがその行動を一貫して実践する可能性はかなり低くなる。あなたの会社が公式にも非公式にも、どのようにしてリーダーを採用し、報い、表彰しているかを考えてみよう。こうしたプロセスの一つひとつが、優れたリーダーシップについての組織の定義を強化する機会になるのである。
インテュイットでは、採用やオンボーディング、パフォーマンス管理プロセスに「リーダーシッププレーブック」を組み込んだ。リーダーを採用する際に使用するため、面接における行動に関する質問をプレーブックに明示している。たとえば、「成功を定義し、それに沿ってチームを突き動かす」というリーダーシップ行動については、このような質問を入れた。「人々が最初は嫌がっていた方向に進むように促さなければならなかった時のことを話してください。その時、あなたは何をしましたか」
すべての従業員は、従業員オリエンテーションでプレーブックの手ほどきを受け、新しく就任したすべてのエグゼクティブは、エグゼクティブオンボーディングの一環として、1年間のディープダイブ(あるテーマを深く掘り下げて調査や分析をする)に参加する。「リーダーシッププレーブック」は、パフォーマンスや昇進の判断に用いる評価軸であり、会社のリーダーシップ賞や年次リーダーシップ会議の土台となっている。
多くの組織には「テイラー」のようなリーダーがいる。好奇心にあふれ、意欲的で、会社とチームのためによいことをしたいという熱意があるにもかかわらず、組織の向かい風に遭ってしまう。リーダーとしての成長と能力開発を衰退させるのではなく、サポートして増強するような環境と文化をつくり出す手段を講じるなら、大きな効果が生まれるだろう。
"Don't Let Your Company's Culture Stifle Leadership Development," HBR.org, August 03, 2023.