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リーダーシップの発揮に欠かせない環境の把握
中規模テクノロジー企業の経験豊富なマネジャーであるテイラーは、最近、難しい会話の仕方についての研修を終えた。研修は有益に思えた。新しいモデルを学び、同僚との間で必要となる難しい会話を練習し、他の参加者からフィードバックをもらった。
ところがテイラーは、一度もその会話を実践しなかった。リスクが高いと感じ、相手の反応も心配だった。こうした会話が大切であることはわかっているが、彼女のマネジャーはなかなか直接的な伝え方をしないし、会社で定評があり、昇進しているリーダーのほとんどもそのように振る舞っていた。
この「テイラー」は、筆者が長年接してきた、多くの意欲的なリーダーたちを合成した人物である。彼らは自分の会社にモデルがなく、報われてもいない流儀でリーダーシップを執るよう研修で促され、能力開発されているのである。
筆者は以前書いた記事で、従業員能力開発プログラムの効果を向上させるための行動科学の活用について述べた。個々人が研修終了後、いつ行動を起こすかを具体的に決め、避けがたい障壁に遭遇することを想定して計画を立てると、目標を達成し、意味のある行動変容を起こす可能性が高くなる。
ただし、個人の能力開発に焦点を当てているため、行動変化の取り組みにおけるもう一つの重要な変数が考慮されていない。それは、個人が仕事をするコンテクストまたは環境である。ほとんどの領域において、その人のコンテクストは行動の形成に大きな役割を果たす。環境の設計は、個人の選択やそこから生じる習慣に影響を与えている。
また、私たちはみずからが身を置いている環境における、人々の規範や期待にも強く影響される。周囲の人々が利他的だったり、よく運動していたりすると、私たちも同じように行動をする傾向がある。スタンフォード行動デザイン研究所の創設者兼所長であるBJ・フォッグは、「あなたの行動を抜本的に変える方法は一つしかない。それは環境を抜本的に変えることだ」と言う。
組織のコンテクストでは、上級リーダーが環境づくりに大きな役割を果たす。組織文化の「父」とされる組織心理学者エドガー・ヘンリー・シャインは、リーダーが注目し、ロールモデルになり、教え、強化するものが、組織文化に重大な影響を与えるという。自分のチームの面倒を見ないで職位が上のリーダーとばかり時間を過ごすリーダーは、自分が何を重視しているかについてシグナルを送っている。失敗や弱さを認めることを拒むリーダーは、失敗や弱さを認めることは安全ではないという暗黙のメッセージをチームに送っている。
テイラーの場合、彼女のマネジャーは難しく直接的な会話を避けることによって、そうした会話は優先しなければならないほど重要ではないし、避けてもかまわないという雰囲気をつくっていた。
それでもなお、リーダーシップ開発プログラムは、職場の文化や規範、システムを適切に考慮していないことが多すぎる。
リーダーは短期的な結果に固執する文化の中で、長期的な視野で考えることを求められたり、グループ内の仕事が報われる環境にいるにもかかわらず、組織の境界を越えた協力をするよう教えられていたりする。リーダーとリーダーシップ開発の業者が、(1)会社の文化と組織のコンテクスト、(2)最上級リーダーのコンテクスト形成の役割という2つの決定的な要素を認識していないと、リーダーシップ開発の取り組みを過度に単純化して、台無しにしてしまうことがよくある。
筆者が人材開発ディレクターを務めるインテュイットでは、過去5年間、リーダーの積極的な成長を阻害するのではなく、むしろ強化するような企業文化の形成に取り組んできた。その過程で、学習テクノロジーを近代化する必要性を含め、多くのことを学んだ。それを達成するためには、人事や技術チームからの深い同意が重要であり、また大きな投資も必要だった。
また、時間の制約やほかの多くの優先事項を抱えながら、リーダーが能力開発を一貫して優先することが、どれほど難しいかにも気づかされた。まだ先は長いとはいえ、正しい軌道に乗ったことを示唆するような肯定的なフィードバックやエンゲージメント、そして行動の変化を見ることができた。筆者らの経験が、同様の取り組みの途上にあるすべての人にインスピレーションを与えることができれば幸いである。
以下は、リーダーシップ開発をサポートし、強化する企業文化を構築しようと実施した4つの行動だ。