効果的なリクエストの5つの要素
著述家のチャルマーズ・ブラザーズによるLanguage and the Pursuit of Happiness(未訳)によれば、リクエストには5つの要素がある。
1. 何を求めているのか
ある投資銀行のエグゼクティブは、コンサルタントを雇いたいと思っていたのだが、どの候補者の提案書も内容が貧弱で、不満を感じていた。料金表やスケジュールの記載がないのだ。しかしよく考えてみると、提案書に盛り込むべき要素を自分が示していなかったことに気がついた。わざわざ言わなくても当然含まれると思っていた項目を含め、すべての要素を列挙したところ、説得力のある提案書を多数受け取ることができた。
2. 誰に求めているのか
チームに何かをリクエストをすると、誰もが「誰かがやってくれる」と思い込むことが多い。ある不動産会社のCEOが、経営幹部会議で、困難な1年の終わりにスタッフ感謝イベントを開催しようと提案したところ、みんな大喜びした。人事部長や人材担当バイスプレジデントも喜んだが、どちらも相手がリーダーシップを執ると思い込んで会合を終えた。CEOがその場で担当者を指名していれば、強力なリクエストになっていただろう。
3. 期限はいつか
グローバルなチームがリモートで仕事をしている場合、期限の問題はとりわけやっかいだ。多くの企業で「終わり」がないなか、COB(会社の終業時間)とは何を意味するのか。EOD(1日の終業時間)とは、カリフォルニア、ニューヨーク、シンガポールのどの1日なのか。米東部時間の午後5時、中部時間の午後6時、あるいはロサンゼルスの深夜12時なのか。「今週末まで」とは、金曜日の正午のことなのか、日曜日の深夜11時59分までなのか。「ASAP」(できるだけ早く)も無意味な表現であり、詳細を明らかにする必要がある。
リクエストをする側とされる側では、「できる」と「早く」の定義は大きく異なるかもしれない。ASAPとは、会議終了後30分以内なのか、それとも2週間以内なのか。リクエストに明確なスケジュールを示せば、リーダーは受信トレイを何度もチェックしては、自分の作業に戻るといったことをせず、時間とエネルギーを節約できる。
4. 具体的な満足の条件は何か
多くのチームには、わざと批判的な発言をして議論を深める「悪魔の代弁者」を自任する人がいるものだ。しかし、その発言内容がいかにしっかりしていても、若手の自由で創造的な思考を締め出してしまうおそれがある。「さらにポジティブに」とか「さらに楽観的に」といったリクエストが、良好な結果につながる可能性は低い。その従業員が、自分はチームの助けになっていると純粋に思っている場合は、なおさらだ。そうではなく、リーダーは話し合いの中で、具体的な満足の条件を明示したほうがうまくいくかもしれない。
たとえば、次の全員ミーティングでは、「悪魔の代弁者」に3人が意見を述べるのを待ってから発言するようリクエストしてもよいだろう。批判的な意見を言う前に、2つの前向きなインプットを述べるようにと求めるのもよいだろう。
5. コンテクストは何か
コンテクストに沿ったリクエストをすると、リーダーは自分のパワーを希釈化することなく、穏便に物事を進められる可能性が高い。場当たり的に定められたように見えるリクエストの期限も、コンテクストがわかれば、なぜ重要なのか明らかにできる。水曜日の午後5時までにクライアントに報告書を示さなければならないのは、先方のCEOが木曜日の朝に休暇に出るからかもしれない。日曜日の午後6時までにアジェンダを共有しなければいけないのは、CEOが日曜日の夜と月曜日の朝の2度にわたり見直して、不足がないようにしたいからかもしれない。
無回答は問い質す
適切な表現のリクエストに対して、許容される回答は4種類しかない。承諾、拒絶、逆提案(「火曜日までは無理だが、水曜日の午後6時までなら可能だ」)、明確な期限付きの遅延(「金曜日の正午までに返答する」)だ。あなたの得た回答が、このうちのどれかでないなら、それは無回答に等しく、あなたのリクエストは無視されている可能性がある。
筆者自身やクライアント、同僚、そしてソーシャルメディアから集めた無回答の例を紹介しよう。
大丈夫なはずです。
後ほどお返事します。
Xに聞いてみます。
よいですね。
最大限努力します。
誰か担当をつけます。
お手伝いできるか検討してみます。
よいアイデアですね。
こうした事実上の無回答の時は、あらためて回答を求める時期を知らせよう。たとえば、「では、誰を担当にしたか2日後にあらためて聞こうか」とか「わかりました。火曜日の午後に手短にズームミーティングを開いて、君が引き受けられるかどうか確認しよう」などだ。
結果を出すリクエスト
最も優れたリーダーでも、自分のコントロールが及ばないことが多くあることを知っている。だが、他人にどのように話をするかは、自分で決められることの一つだ。たいていの人にとって、本物の回答を引き出す明確なリクエストは、最初から自然にできるものではない。だが、時間が経てば、できるようになる。リクエストの技は、マスターする価値のあるものだ。
"Mastering the Art of the Request," HBR.org, August 04, 2023.