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広告費が知らぬ間に虚偽情報サイトの資金源に
あなたの会社の広告予算のうち、どれくらいの金額がインターネット上の虚偽情報拡散の資金源になっているだろうか。「ゼロだ」と答えるかもしれない。たしかに、評判の高いブランドの大半は、陰謀論者や白人至上主義者、トロールファーム(虚偽情報をインターネット上にまき散らす業者)などの記事と一緒に自社の広告を載せようとは思わないだろう。
しかし残念ながら、そうした意思を持っているだけで虚偽情報に広告費を支払うことを完全に避けられるわけではない。プログラマティック広告(運用型広告)を通じた自社の広告枠購入の状況を日常的に監視するなり、広告を掲載したいウェブサイトと直接取引するなりしていない限り、そのブランドは虚偽情報ビジネスに直接寄与している可能性が高い。
デジタル広告産業の市場規模は、世界全体で6000億ドルと推定され、いまも成長し続けている。企業の広告掲載先としてはフェイスブックなどのソーシャルメディアの人気が高いが、インターネット上の広告の多くはいわゆる「オープンウェブ」に掲載されている。これは、グーグル検索で簡単にたどり着ける膨大な数のウェブサイトやアプリのことだ。そこから収益を得ているアドテック企業はほとんど監視や規制を行っておらず、広告主にとってはかなり不透明な状況である。
このような状況は、ここ10年間ほどで、広告主がプログラマティック広告の導入を推進してきたことの代償といえる。この手法を導入することによって、より多くの広告を、より幅広い層に、より少ないコストで届けることができると期待していたのだ。
広告主が広告掲載にまつわる日々の業務をデジタル広告のサプライチェーンに委ねるようになると、このプロセスに関わる仲介業者たちが広告主に届ける情報をコントロールするようになった。その結果、広告主が自社の広告について精査するために必要なデータが提供されないケースが増えている。こうした現状は、消費者が個人の価値観やブランドイメージに基づいて購買を決定している現在、広告主にとって深刻な風評リスクを生み出しかねない。
広告主は、自社の広告をコントロールする力を取り戻さなくてはならない。広告枠の売買を行うサードパーティ業者から詳細なデータを入手し、自社の広告キャンペーンを監視し、インターネット上のどこに広告を載せたいかを自分たちで判断すべきだ。それを怠れば、ブランドの評判に傷がつくリスクを抱え続けることになる。また、問題はそれだけではない。インターネット上に虚偽情報をばらまくことにより大きな経済的恩恵にあずかる人たちの懐を潤わせてしまう可能性もある。
アドテックが虚偽情報拡散の資金源になったわけ
監視と説明責任が欠如している状況で、広告主は自社の広告キャンペーンについて何も知らない。そうした状況は、虚偽情報を拡散する工作員や詐欺師たちがはびこる世界をつくり出した。世界広告主連盟(WFA)によれば、2025年までに、デジタル広告は「組織犯罪グループにとって、麻薬取引に次ぐ収入源になる」見通しだという。
デジタル広告は、悪徳業者に利益をもたらすだけでなく、そうした勢力に世論操作のツールも与えている。筆者が共同創業したデジタル広告監視団体のチェック・マイ・アドは、この状況を三重の脅威と考えている。
プロパガンダは、カネと広告、データによって拡大する。まず、広告収入は、プロパガンダの実行者たちがウェブ上で活動の規模を広げる原資になる。データは、プロパガンダの実行者たちが詳細なユーザープロファイルをつくり上げ、嘘や偏見に影響されやすい人に標的を絞り込むことを可能にする。そして最後に、掲載される広告、特に優良企業の広告は、虚偽情報のウェブサイトにアクセスした人たちに、そのサイトが正当なものだという印象を与える効果がある。
このようなビジネスモデルが持続可能性を持っているのは、広告主が無自覚のうちにあらゆるサイトの資金源になってしまっているからだ。しかし、この状況を放置し、いつも想定外の場所に広告が掲載されている状況では、ブランドの評判に悪影響が及びかねない。企業のコミュニケーションチームはしばしば、自社が了承していないどころか、認識してすらいなかった広告掲載をめぐる問題への対応に追われるはめになる。
2021年、アイウェアブランドのワービー・パーカーは、自社が『デイリー・ワイヤー』というニュースサイトに広告を掲載していることを知った。このニュースサイトは、トランスジェンダーの人たちへのハラスメントと差別を公然と支持し、さらにはトランスジェンダーを「根絶やし」にするという考え方まで掲載していた。ワービー・パーカーは、このサイトに自社の広告が掲載されていることを知ると数時間以内に広告を取りやめ、「この種の広告掲載を防ぐよう、積極的に行動する」ことを約束し、「私たちはこのようなことを許容しない」と表明した。
2022年8月、チェック・マイ・アドは、ドナルド・トランプ前大統領の側近でもあった極右論客のスティーブン・バノンがホストを務めるライブ配信番組『ウォールーム』のCMに、一般消費者向けブランドの広告が登場することに気づいた。バノンは番組で、米政府の新型コロナ対策を主導したアンソニー・ファウチ博士の斬首を求めるなどの持論を展開していたが、その番組にプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、日産自動車、アウディなどのブランドが広告を提供していたのである。