それでもリーダーは病気を隠したり軽く見せたりしていた
リーダーの77%が、職場で自分の病気の深刻度を軽く見せることが頻繁に、または時々あると回答した。そうした経験がないと答えたのは、わずか23%だった。持病を軽く見せる方法として考えられるのが、目に見える症状(しつこい咳など)をごまかす手段を見つけたり、人に体調を聞かれた時に巧みに話題を変えたりすることだ。
心理的安全性は職場における病気開示の重要な指標である
筆者らの調査で、心理的安全性と病気開示の透明性には相関関係があることが明らかになった。つまり、一般的に組織で発言することに安全性を感じているリーダーほど、慢性疾患についての透明性が高くなる。同様に、所属する組織が従業員のウェルビーイングに配慮していると考えるリーダーほど、自分の健康状態を完全に公表する傾向が強かった。
逆もまたしかりで、当然のことながら、心理的安全性がなければリーダーは自分の病状を完全に隠す傾向が強かった。たとえば、研究参加者のウォーレンは、慢性喘息を隠すために、息切れしているところをけっして経営陣に見せないようにしていた。ウォーレンは、自分の持病が会社の非公式なモットーである「弱さを見せず、強さを示せ」と相反すると考えていた。このモットーは、彼が属する極めて競争の激しいエグゼクティブの環境の中核を成していた。
自分の健康状態を開示するようリーダーに奨励したいなら、安心して開示できる環境を組織が醸成する必要がある。さらに組織は、従業員が病気による差別を恐れることなく昇進への道を進むことができるよう、便宜を図る意思を示さなくてはならない。
リーダーは病気開示がキャリアに与える影響を懸念している
病気の開示を考えているリーダーは、自分が弱いとか能力が不足していると思われることに特に敏感で、開示した結果が将来のキャリアに影響を及ぼすのではないかと恐れている。筆者らの調査では、リーダーの42%が、持病を公表することで同僚から自分の能力を判断されるのではないかと恐れ、39%が病気を開示することで昇進を見送られることを懸念していた。
開示するかどうかの決断
ここまで、職場で健康上の懸念を公表する際に、従業員がどのような選択をしたかの例を示してきた。しかし、病気を開示する必要がまったくない場合もあり、職場での病気の開示に関してプライバシーや差別禁止の法的保護があることを理解することも重要だ。
リーダーであるあなたが病気を開示するかどうか迷っているのであれば、決断を下す前に以下の質問をみずからに問うてみよう。
・病気の診断、治療、長期的な管理について、自分は現在どのような状況にあるのか。
・病気を開示することをどの程度安全だと感じているか。その安全の感覚は、自分が認識している負のイメージと、働いている組織文化の現実にどの程度基づいているか。
・自分の健康状態は、仕事の責任を果たす能力をどの程度損なっているか。
・どのような配慮があれば効果的に仕事を続けられるか。あるいは、この職務を本当にまっとうできるのか、真剣に見直すべきだろうか。
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リーダーが慢性疾患を公表すると選択するかどうかにかかわらず、重要なことは、長期的な健康障害とともに生きることと組織のリーダーであることの間には、実際には矛盾はないということだ。それどころかリーダーは、自身の慢性疾患を管理することを通して、不確実性への耐性や自他への思いやりといった今日の効果的なリーダーに不可欠な資質を培えるのである。
"Research: When Leaders Disclose a Chronic Illness at Work," HBR.org, August 23, 2023.