嵐はまだ始まったばかり
2020年1月16日、自動車大手フォルクスワーゲンのヘルベルト・ディースCEOは、自社の幹部たちにこう語った。「いままでのスピードで動いていては、厳しい未来が待っている。……嵐はまだ始まったばかりだ。昔ながらの自動車づくりの時代はもう終わったのだ」
著者たちの研究とコンサルティングの経験に基づいてこの言葉に付け加えるとすれば、長期にわたる変化の末に、昔ながらのビジネスと行政の時代は終わった、まだ終わっていないとしても、まもなく終わるのかもしれない、ということだ。
市場でライバルの安売り攻勢をはねのけるためにせよ、革新的な新商品や企業のM&Aがもたらすチャンスを生かすためにせよ、今日の企業は、これまでよりも素早く、柔軟に行動しなくてはならない。ときには、大幅にスピードと柔軟性を高めなくてはならない場合もある。これは、新型コロナ危機のような特異な状況に限った話ではない。現在と未来の現実が変わり続ける状況に対処するためには、それが不可欠なのだ。
また、素早く状況に適応することは、ビジネスだけでなく、社会にとっても重要な意味をもつ。私たちの社会が気候変動や食糧不足などの脅威を取り除き、より公平で繁栄する世界に向けて前進するために、その必要がある。
スピードと柔軟性を高めることに長けている企業は、早い段階で新しい潮流を察知し、素早く変化を遂げ、剛速球並みの猛スピードで前進する。本書では、そうした企業の実例を多数紹介していく。ほとんどは、著者たちがコンサルティング業務を通じて間近で見てきた企業であり、それらの企業が適切な例であることに著者たちは確信をもっている。そうした例外的な先駆的企業から学べることは多い。というより、私たちは学ばなくてはならない。大多数の企業は変化への適応に苦労しており、適応のペースがあまりにも遅すぎるからだ。
適応が重要なのは、最近に始まったことではない。アメリカ建国の父のひとりであるベンジャミン・フランクリンも、「変化することを終わりにした人には、終わりが訪れる」という言葉を残している。昔と違うのは、変化を求められる頻度と変化すべきスピードが増し、私たちが生きる環境の複雑性と不安定性が強まっていることだ。
>>連載第3回「組織が苦境に陥るのは、頑迷なリーダーや能力不足の人たちが原因なのか」はこちら
[著者]ジョン・P・コッター、バネッサ・アクタル、ガウラブ・グプタ
[訳者]池村千秋
[内容紹介]
リーダーシップ論、組織行動論の大家、ジョン P. コッター教授、待望の最新刊がついに発売! なぜ、トップの強い思いは伝わらないのか? なぜ、現場の危機感は共有されないのか? 組織変革の成否を左右する「人間の性質」に迫る。
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