ローカルな顧客体験を同一なものではなく、公平にする

 デジタル時代において、顧客体験を各地域に適応させずにグローバル進出することはそれほど難しいことではない。しかし、地域に十分に適応できていない企業は、顧客と真の価値のつながりを築く機会を逃すだろう。

 ローカルな顧客体験を公平にするといっても、同一にしなければならないのではない。むしろ、多くの企業の誤りは、「グローバルレバレッジ」の名の下にあらゆる市場に対して紋切型のアプローチを試みるところにある。だがそのやり方は、ローカル適応の重要性を見失っている。ローカルに適応することで、価値の定義や引き出し方が異なっている地域も含め、すべての市場の顧客が自分の受け取る価値に等しく満足できるにもかかわらず、だ。

 この点で優れた例としては、スターバックスが挙げられる。商品のレベルでは、顧客は世界のどの店舗でも同じ標準メニューを注文できる。だが、たとえば、ルクマという果実が育つペルーでは、ローカルな人々の好みにアピールするため、ルクマ・クレム・フラペチーノをバリスタに注文できるようにしている。スターバックスは物理的な商品だけでなく、デジタルを通じた顧客へのアウトリーチでもローカル適応している。同社はオフラインでもオンラインでもグローバルな一貫性を実現するとともに、各国の季節、祝日、ローカルな伝統に結びつけて、デジタルのマーケティングキャンペーンをカスタマイズしている。

 以下の表は、企業が新規市場の顧客に公平な体験を提供するために実施できる適応策の例である。

 特にデジタルおよびソフトウェア商品を扱う企業がそうなのだが、ほとんどのグローバル企業が陥りやすい誘惑は、あらゆる市場でいつもいっせいに同じことをするというものである。そうなるのも無理はないとはいえ、実際には逆効果で、個々のローカル市場に不釣り合いな投資が必要になることもある。

「あらゆる市場であらゆること」をするのではなく、必要な選択をしながら、その市場に適応する本気の意志を示そう。どのような戦略が新しいローカル市場で最も有効なのか、従業員に創造力を駆使して考えるように促そう。そうすれば、アプローチはそれぞれ違っても、平等な価値を引き出すことができるだろう。

グローバルに公平なマインドセットを持つ組織になる

 顧客の公平な体験を本当の意味で創造するには、できるだけ早期から筆者がグローブマインドセットと呼ぶものの推進に力をそそぐ必要がある。グローブのGはgeography-agnostic(地理に依存しない)、Lはlinguistically inclusive(言語面でインクルーシブ)、Oはoperationalized(運用可能)、Bはbalanced(バランスがよい)、Eはempathetic(共感的)を意味する。

 このマインドセットがあれば、肩書きに「グローバル」がつく人だけではなく、すべての従業員が末永くグローバルに公平な機運を維持できる。

 会社で新しくグローバルな取り組みを開始する時は、それが公平なアプローチになるよう、次の5つの質問に答えることをお勧めする。

・地理に依存しない:このプロジェクトは一つの市場の顧客のニーズを中心にして設計されたものか、それとも複数の地理的地域を包含するものか。

・言語面でインクルーシブ:サービスを展開するローカル市場の顧客の言語とリテラシーのニーズを考慮したか。

・運用可能:実行する段階になってローカルチームに摩擦が生じないように、プランの地域差について説明したか。

・バランスがよい:特に資金調達や人数などのリソースは、優先的な市場をサポートできるように調整されているか。

・共感的:ローカル市場の顧客やリーダーと話して、そのニーズを本当の意味で考慮したか。

 この5つのシンプルな原則をリーダーシップチームがマインドセットの中心とする習慣を身につけたら、世界中の顧客の公平な体験をおのずと促進できるだろう。

 今日、グローバルの事業拡大はたえず変化しながら、ますます進行している。すべての市場で公平に価値を向上させることに力を入れれば入れるほど、それだけ経済的成功はより大きくなる。だが、それはひとえに、ローカルな顧客に公平な体験を提供することに価値を置く新しいアプローチを取った結果なのである。


"How Global Companies Can Create a Consistent Customer Experience," HBR.org, August 30, 2023.