グローバルで事業を成功させている企業に共通するもの
Yaroslav Danylchenko/Stocksy
サマリー:デジタル市場の台頭により、企業はグローバル展開が容易になった。しかし、グローバル展開は複雑であり、地域によって顧客に提供する価値に差異が生じたり、不公平が引き起こったりするリスクがある。グローバル展開... もっと見るを成功させるには、事業展開の初期から地域に関係なく、公平な価値提供に注力しなければならない。 閉じる

グローバルで公平に事業を展開する

 グローバルな事業拡大は、表面的には、かつてないほど容易になったように見える。今日では、どのような企業もほぼ瞬時に複数の市場に参入できる。ブログ記事を投稿したり、モバイルアプリを発売したり、デジタル広告を利用したりして、望むだけ多くの国の顧客をターゲットにできるのだ。オンラインのグローバル市場の台頭により、企業は創業当初から複数の国に同時に進出しやすくなった。そのため、開業の初日からグローバルで存在感を示す「グローバル・ネイティブ」な企業が相次いで誕生している。

 アイルランドのドニゴールを拠点とするロッティのCEOであるイアン・ハーキンは、創業当初からグローバル市場を念頭に置いていた。同社はバービーのような大人の体形ではない子どもサイズの着替え人形を製造する玩具メーカーである。「玩具業界では開発の初期コストが非常に大きいので、一国だけでの事業展開では費用を正当化しにくいのです」と彼は言う。

 ハーキンはアマゾン・ドットコムに店舗を組み込み、たちまち米国やカナダ、メキシコ、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、スウェーデン、ポーランドの顧客に到達した。現在、同社の収益のほぼ100%がアイルランド国外から生じている。「当社は、初期からグローバル展開することによって、一度に一国ずつ拡大するよりもずっと迅速に、多くの潜在顧客に商品とブランドを届けることができました」と彼は強調する。

 事業のライフサイクルのできる限り早い段階から、グローバル展開する企業がますます増えているが、これはアマゾンやエッツィといったグローバルなプラットフォームを介して発売できる物理的な商品だけに起きていることではない。

 ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツのパートナーらは、グローバル展開にかかる時間を大幅に縮小する「デフォルトグローバル」な企業の新しい波について指摘している。このタイプの企業を2~3の外国市場で活動するのに5年かかる「デフォルトローカル」な企業と対比すると、デフォルトグローバルな企業が取引している市場の数は3年間で、デフォルトローカルな企業の2倍になるという。

 さらに、金融サービスとSaaSを手掛けるストライプの調査によると、成功しているテクノロジー企業の89%は、評価額10億ドル以上の「ユニコーン」の地位に達する前からグローバルで事業展開していた。

 しかし同時に、グローバル企業の構築は、かつてないほど繊細で複雑なものになっている。これまで企業は、統制を効かせながら、一度に一つの市場に限定して事業拡大に取り組むことができた。デジタル時代において、グローバルな成長は連続的で漸進的な性格を帯びている。この新しいアプローチにはリスクが伴う。もし市場によって顧客の受け取る価値に差があれば、商品に対する認知にも差が出るだろう。これは顧客にとって不公平なだけではなく、長期的に事業にダメージを与えかねない。

 こうした理由から、もしあなたの会社がすでにグローバル企業として成功しているとしても、求める水準を引き上げる時が来ている。長期的成功を維持するには、ただ多くの国々に顧客と収益源を持つだけではなく、グローバルに公平な組織(GEO:グローバリー・エクイタブル・オーガニゼーション)として運営する企業を形成つくらなければならない。

グローバルに公平な組織の台頭

 かつて筆者は、大手テクノロジー企業のハブスポットでグローバルの事業拡大に8年近く関わり、継続的に拡大するという顕著な変化を目の当たりにしてきた。また、より大きな市場においては、もう一つの重要な動向が見られた。過去には、グローバルでの事業拡大を追求する企業は、通常、新市場の収益や顧客数という形で厳密に定量的な尺度で成功を測定していた。

 グローバルが当たり前になりつつある現在、もはや目標はただ世界のさまざまな地域における収益のシェアを増やすという単純なものではなくなった。むしろ、新しい尺度では顧客志向の性格が濃くなっている。企業は新たな地域で新規の顧客を獲得するだけでは不十分で、顧客の維持が重要であると気づいている。そうすることで、収益が維持できるからだ。

 最も優秀なグローバル企業はみずからに問うだろう。各市場のローカルな顧客は、地理的要因に妨げられずに、どのぐらいその会社の商品やサービス、そして事業に満足できるだろうか。

 アイルランドのコークに本社を置くプロジェクトマネジメント・ソフトウェア会社のチームワークを例に取ろう。「最初から、世界のどこからでもソフトウェアを売ることができます。国境はないのです」と、チームワークのCEO兼共同設立者のピーター・コッピンガーは言う。「チームワークのグローバルな事業拡大から学んだ最大の教訓の一つは、いったん、ある規模に到達したら、最も潜在的可能性の高い地域のターゲット化について、より熟慮して取り組む必要があるということです」

 特定の市場でのプレゼンスが増すにつれて、コッピンガーのチームは、新たなタイムゾーンの顧客をサポートするために、営業と顧客対応の人材を増やす必要があると気づいた。「ターゲット顧客と同じタイムゾーンにいて同じ言語を話すスタッフがいることに勝るものはありません」と彼は言う。チームワークは、一部の顧客がこの面で苦痛を感じていることに気づくと、すべての顧客のための公平な顧客体験の創造に積極的に取り組んだ。現在、同社は170カ国に2万人の顧客を抱え、15カ国に350人とグローバルに従業員を配置している。