経営トップからの変革が必要

 組織における効果的で持続的な変革は現場から沸き起こるものであり、経営陣による強い指示は従業員に支障をもたらしかねないことが、多くの研究で示されている。筆者らもこうした研究の多くを自著の中で引用し、みずからも相当量の研究結果を発表してきた。

 しかしながら、テクノロジーの過多とデジタル疲労に関して、問題を軽減する最善の(場合によっては唯一の)方法は、トップダウンによる強力で持続的な、いっさい妥協のない介入である。

 今回のコラボレーション浄化の結果が示すのは、コラボレーションテクノロジーが持つ相互作用的かつ相互依存的な性質ゆえに、個々の従業員が職場において、みずからの意思でツールの使用を実質的に減らすのは、ほぼ不可能であることだ。そして実験の参加者が明らかにしたように、デジタルツールを使う方法とタイミングを変えようと試み、それに失敗することは、何も試みない場合よりも苦痛かもしれない。

 現場の従業員は、どのツールを使い続け、どのツールを廃止すべきかについて最良の情報を持っている場合が多い。一方で階層のトップにいる人々は、組織全体に変革を起こし、デジタルの洪水に溺れないよう従業員を助けるために権限を行使できる最良の立場にいる。

 従業員のコラボレーションツールの使い方を改善するために、リーダーができることを以下に挙げよう。

意図的な制約を設ける

 特定のテクノロジーをどの場合に使用すべきかについて、明確なガイドラインを設定しよう。これにより従業員は、どの作業をどのテクノロジーで行うのかについて迷う時間と労力を節約できる。

 交渉の余地はなくすべきだ。たとえば、筆者らと協働したある組織のリーダー陣は、スラックは時間的制約があり、至急の応答を要するコミュニケーションに使うべきであり、緊急度の低い事項には使ってはならないと規定している。別の組織のリーダー陣は、メールの全面的な禁止や、一つのプロジェクト管理ツールのみの使用を決定している。

 ここでのカギは、具体的かつ厳格にすることだ。多すぎるツールで従業員の仕事を混乱させてはならない。

根本原因と波及効果に対処する

 リーダーはテクノロジー過多による明らかな症状と、その根底にある原因の両方に対処することが不可欠だ。自社にある大量のツールの削減と、重複し非効率なテクノロジーの排除にトップダウンで取り組もう。

 浄化に参加したあるデータサイエンティストは、自社のリーダー陣が重複するファイル共有プラットフォームの従業員ライセンスを解約した経緯を語った。おかげで彼やほかの従業員は、ドキュメントを扱う際に単一のプラットフォームに専念できるようになり、異なる手順とコマンドを必要とする複数のプラットフォームの間を行き来せずに済むようになった。

 ツールの過多による波及効果を軽減できるよう従業員を後押しすることも、リーダーの責務だ。「おやすみモード」などの機能を使って不要な通知をオフにし、集中力を取り戻して自分でコントロールすることを奨励しよう。ただし、リーダー自身がこの行動の手本を示さなければ、従業員も実行しないだろう。

摩擦の解消に真正面から取り組む

 テクノロジーの使用習慣を定期的に検証することを従業員に奨励して後押しし、場合によっては義務化しよう。この意識的な振り返りによって、従業員はテクノロジーの過多に伴う負担をより強く意識できることが、浄化の取り組みの中で示されている。

 引き算志向は変革の強い促進要因となり、テクノロジーが生産性とウェルビーイングに及ぼす影響について、立ち止まって厳しく検証するよう従業員を促すことができる。

 とはいえ筆者らの介入では、従業員が変更は無理だと感じる場合、この意識の高まりはデジタル疲労の感覚の増大につながることも明らかになっている。リーダーの役割は意識的な振り返りを促すだけでなく、従業員がテクノロジーの使い方を変えられるよう支援とリソースを提供することである。

 これには、テクノロジーの使用習慣に関してチームでの議論を促すことや、コラボレーションツールのより効果的な使い方に関する研修の提供、あるいは従業員のフィードバックに基づいて組織の技術スタックを改善するために、リーダーとしての権限を用いることが含まれる。ツールの過多に対する意識の高まりを、絶望感の増大ではなくポジティブな変化につなげるために、リーダーは最後までやり抜く覚悟と責任を持たなくてはならない。

クレジットカード方式に注意する

 マネジャーがチームのためにデジタルプラットフォームのサブスクリプションを購入する際、IT部門に報告しないまま、少額の月額料金を会社のクレジットカードで引き落とすだけで済ませることが一般化している。テック企業の多くは、マネジャーが会社の長々とした承認プロセスを経ずに購入できるように価格戦略を設計している。

 多くのマネジャーは、チームが最良のテクノロジーを迅速に導入するための助けになると考えてこの方法を用いている。だが購入に伴う抵抗がないことは、メンバー各人の技術スタックの肥大化を招き、デジタル疲労の感覚を増大させかねない。

 従業員にどれほど多くのツールを導入させるのか、ひとたび使い始めればそれをやめるのが従業員にとってどれほど難しいかについて、マネジャーはさらに意識的になる必要がある。

 筆者らが協働したある中規模企業では、最高技術責任者(CTO)が経理部に対し、会社のカードで行われたソフトウェアベンダーからの購入をすべて報告するよう指示した。そしてIT部門の承認を得ていないサブスクリプションは解約された。マネジャーがそれを再開したい場合、CTOに書面で正式に申請しなければならない。

 これはたしかに、トップダウンによる厳しいやり方だ。しかし、ツールでチームを圧迫しないよう1年の間マネジャーたちに要請し続けてきた後で、CTOはようやく、空約束ではなく問題に本腰を入れるよう彼らに強制したのである。大量の解約から6カ月後、同社が使うツールは約30も減っていた。

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 コラボレーションツールの過多は従業員を選択肢に溺れさせ、無力感を与えてしまう。皮肉にも、それらの選択肢に制約を設け、新たなツールの導入に対してあえていら立ちさえ覚える障壁を用意し、個人から主導権を奪うことで、従業員は自分の仕事に対するコントロール感を高めることができるのだ。


"Are Collaboration Tools Overwhelming Your Team?," HBR.org, August 31, 2023.