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給与の透明化が進む中での交渉方法とは
自分の価値を測るための情報が増えれば、理論上は、給与の交渉が有利になるはずだ。しかし、実際の状況は複雑である。企業は自分たちが設定した給与範囲から外れることを嫌がるかもしれないし、あなたは道理をわきまえない人間だと思われることを恐れて強気で交渉を推し進めることをためらうかもしれない。
米国で給与の透明化を義務づける法律が導入された新しい時代に、どのように給与交渉に臨むべきか。役職による給与体系の幅が大きすぎる場合、どのように主張するのが最善だろうか。直接的か間接的か、どちらがよいのだろうか。
専門家の意見
給与の透明化に関する法律は州によって異なるが、簡単にまとめると、雇用主は求人広告や採用候補者へのオファー、社内の昇進や異動に際し、給与範囲など給与に関する情報を開示しなければならない。その目的は給与設定の方針をより可視化して、ジェンダーや人種による賃金格差を是正することだ。
求職者にとっての利点は、実質的に給与交渉の主導権を持てることだと、『あなたの給料はまだ上がる』の著者で、ナイキやスターバックスなどで従業員の報酬プロジェクトに携わってきたデイビッド・バックマスターは語る。給与透明化法がない時代、報酬は謎めいたブラックボックスのようなものだった。バックマスターによれば、「求職者は自分と同等の従業員がどの程度の収入を得ているのか、会社が市場に対してどのような基準で給与を決めているのか、知りようがなかった。給与範囲が開示されて、そうした未知の部分がなくなった」という。
一方で給与透明化法の短所について、ノースウェスタン大学ケロッグスクール・オブ・マネジメントの教授でNegotiate Without Fear(未訳)の著者、ビクトリア・メドベックは、求職者が採用オファーの全体像ではなく、給与に過剰にこだわることだと指摘する。「給与もオファーの一部ではあるが、役割や責任、福利厚生、勤務の柔軟性など、ほかに考慮すべき面もある」
本稿では、交渉をうまく進めて、自分にふさわしい報酬を得るためのヒントを紹介する。
給与透明化法によって新しく獲得した力を正しく理解する
給与の交渉には情報、策略、自信、そして正しい考え方が必要だとメドベックは言う。「知識は力であり、あなたはいま、自分がどこまで可能かを知っているという意味で優位に立っている」
提示された給与範囲(給与の上限から下限)が広すぎて、交渉において役に立ちそうにないと思える時もあるだろうが、それも交渉の武器になるとメドベックは言う。「給与範囲が存在するのは、交渉とは従業員と雇用者が相互に働きかけるものであるからであり、なかにはより効果的に交渉できる人もいる」。結局のところ、より多くを求める意志だけでなく、自分の主張をするための情報と自信を持つことも重要なのだ。
たとえ想定していた数字に届かなくても過度に心配せず、怖じ気づいたり落胆したりする必要もないと、バックマスターは言う。
たとえば、あなたの現在の年収が7万ドルで、同じような仕事を10万~15万ドルの給与範囲でオファーされた場合、その上限を要求するのは無謀だと思うかもしれない。しかし、あなたの現在の給与は、ほかの企業があなたに払う給与にはほとんど影響しない。「これまでの給与は関係がない」のである。
事前によく調べる
重要なのは、雇用主があなたの市場価値をどう見ているかを、客観的かつ現実的に理解して交渉に臨むことだ。そのためには企業が公表している給与範囲の中で、自分が上位なのか、中間なのか、最下位なのか、どの層に位置するかを把握するための下調べが必要になる。
「給与透明化の法律ができる前は、人事部門は無作為にダーツを投げて従業員の給与額を決めていると思われていたかもしれない。しかし、これらの数字は厳密なものだ」とバックマスターは言う。給与範囲の裏には、採用候補者には見えない「承認マトリックス」があるという。「どの企業にも、給与範囲の最上位に誰かを置くことを正当化するために特別な承認を必要とする、トリガーポイントが存在する」
とはいえ、気を落とす必要はない。そのことを踏まえて説得力のある自己アピールをすればよい。グラスドア、ラダーズ、サラリー・ドットコムなどの求人検索サイトやデータベースを調べたり、採用担当者や業界の同僚に話を聞いたりしよう。自分の経験や資格にしっかりと目を向け、自分の職歴について正直に評価する。「自分の実際の職務レベルと過去の責任範囲を適切に評価してください。肩書きを強調しないことです。スタートアップの取締役と大企業の取締役は同じではありません」とバックマスターは言う。