
リーダーはどのように意思決定に関わるべきか
CEOの役割についてよくある誤解は、CEOは究極の意思決定者であり、この憧れのポジションに就けば、あらゆる決定を下せるようになる、というものだ。だが実際のところ、CEOの仕事は、みずから決定を下すというより、組織の意思決定を「形成」することである。
その微妙な違いには、重要な理由がある。組織は日々、無数の決定を下しており、その一つひとつにCEOが関与することは不可能だ。そのようなことをすれば、経営のスピードが落ち、滞ってしまう可能性さえある。したがってCEOの適切な役割は、決定を直接下すのではなく、CEOが容認するような決定を、部下たちが下すよう仕向けることだ。もちろん、CEOが最終的な意思決定者にならなければならない場合もある。しかし、CEOのアプローチは、「オッカムのかみそり」(物事の説明は必要最小限であるべきという考え方)にヒントを得たものであるべきだ。すなわち、CEO自身が下す決定は、少ないほどよい。
CEOが組織内で下される決定に影響を与える方法は、いくつかある。なかには、組織全体に影響を及ぼすものもある。たとえば、全社的なパーパスを中心に全員の認識を一致させ、優先順位を明確に示し、目標を設定することで、社内各所での決定の内容に影響を与えられるだろう。また、明確な戦略を策定し、適切な責任分担が確保される組織構造を取り、強力な企業文化を育てることによっても、意思決定に影響を与えられる。成果の測定方法と報酬システムを明確にしておくことも、決定を方向づける役に立つ。
だからといって、CEOは意思決定を完全に誰かに任せるわけにはいかない。重要なのは、CEOがいつ、どのように意思決定に直接携わるか選択することだ。
どのような組織でも、決定が下される場面は広範に存在する。そこで役に立つのは、決定のカテゴリー(戦略、組織構造、企業文化、人材、製品、投資など)をX軸に、その決定を下す組織レベル(統括部門、事業部門、地域、機能、子会社、工場、オフィスなど)をY軸に取ったマップを描いてみることだ。CEOは、このマップ上にある決定すべてに影響を与えるために、個人的にどのように関与するかを選択しなければならない。これには、カテゴリーと組織レベルが交わるポイントで、意思決定プロセスの設計にどのくらい関わるか決定し、直接関わるべきタイミングを見定め、その作業をモニタリングし、いつ、誰が決定を下すのかを明確にする作業が含まれる。
このフレームワークは、私がハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で、CEOワークショップを担当する同僚と25年間一緒に仕事をしてきた経験と、私自身が組織を率いたり、取締役や顧問としてCEOたちに助言してきたりした経験に基づくものである。
プロセスを設計する
CEOは、意思決定プロセスをじっくり設計することで、決定そのものに影響を与えることができる。その決定には誰が関与するのか、どのような疑問に答えなくてはいけないか、どんな情報を集めるか。問題が発生した場合に備え、どのようなガードレールを念頭に置き、何回ミーティングを開き、どのような形のディスカッションを持ち、いつ、誰が、何を決定するか、といったパラメーターの設計だ。CEOが意思決定プロセスの設計に関わるレベルは、大きな場合もあれば、小さな場合もある。
たとえば、あるCEOは、重要なポートフォリオ選択(事業の維持、売却、買収など)のプロセス設計には大きく関与していた。直属の部下や有望なマネジャーから成る少人数のグループを組織して、各事業の評価方法を決め、業績を比較するライバルを選び、3カ月の分析期間を設定し、毎週3時間のミーティングを開いて進捗状況を把握し、次のステップについて合意を図ることにした。
このCEOは、人事やIT、財務など管理部門の経費削減目標を達成するための構造改革案作成は、CFOとCHRO(最高人事責任者)に任せることにした。この時に出した指示は、「15%超の経費削減案を2人で作成してほしい」だけで、それをどのようにやるかはすべて2人に任せた。
この事例は、CEOがこうしたプロセスを極めて意図的に設計する必要性を示している。自分が影響を与えたい具体的な事柄に応じて、CEOはさまざまなパラメーター(誰に仕事を任せ、どのような目標や指標を設定し、どのようなスケジュールにするか、どのような期待を設定するかなど)を選び、自分自身が関与したい課題と、誰かに任せたい課題を特定する必要がある。