実際に意思決定プロセスに参加する

 そのうえでCEOは、意思決定プロセスのさまざまな段階に、どの程度参加したいか選択しなければならない。すべての段階で積極的に参加することもできるし、時々、様子を見るだけにしたり、特定のポイント(初期、中間、最終など)で参加したりすることもできる。

 CEOの意思決定への直接的な介入は、チームメンバーを意思決定プロセスに積極的に関与させ、彼らの賛同を引き出したいという意向をよく表している。このような時のCEOを観察すると、あからさまに上から圧力をかけるのではなく、ある決定に向けてチームを誘導する行動を取っているとわかる。たとえば、既存のプロセスに疑問を投げかけたり、ハードルを上げたり、厳しい質問をしたり、よりよい回答を求めたりするのだ。そしてCEOが関与する場合でも、実際の決定は現場に任せるようにしている。

 たとえば、先ほど紹介したCEOは、戦略的ポートフォリオに関するミーティング12回のうち5回に出席した。最初の2回に、議論のしかるべきトーンと方向性を設定すると、その先の話し合いはチームに任せ、途中1回だけ、脱線していないか確認した。そして最後の2回、チームが提言をまとめる時に顔を出した。

 一方、管理部門の経費削減案づくりのミーティングには、このCEOは一度も出席しなかった。代わりにCFOとCHROに進捗状況を簡単に報告してもらい、自分の意見が必要な時はいつでも声をかけるよう伝えた。

 このように、CEOが意思決定に直接参加するレベルは、各プロセスをどのくらい厳格に管理したいか、その決定をどのくらい重要だと考えているか、関係するリーダーへの信頼度、そして途中で介入して軌道修正を図ることがどのくらい大きなコストになると思っているかを反映している。

モニタリングする

 CEOは、意思決定プロセスをどのくらいモニタリングしたいかも判断する必要がある。どのような決定プロセスでも、その展開に応じてフィードバックを提供することは、CEOの重要な仕事の一つだ。定期的なレビューの場合、CEOはモニター役であり、物事が順調に進んでいるか、組織が計画通りに運営されているかを確認する。これに対して、CEOがコーチ役を担う場合もある。人材を教育し、建設的なフィードバックを与え、業績改善の手助けをするが、意思決定そのものにはほとんど直接的な影響を与えない。

 CEOが意思決定プロセスを直接モニタリングすると、チームの基準を設定し、足並みを揃えるよう促し、軌道を修正できる。その方法として、チームと定期的に会合を持つこともあれば、時々、様子を見て、計画から脱線していないか確認するだけの場合もある。

 CEOが意思決定プロセスをモニタリングする際、重要になるのは、どこまで細かく関与したいか、だ。あくまで高いレベルで関与するだけのこともあれば、細部まで深く関与することもできる。また、自分の関与レベルをあらかじめ明確にしておくCEOもいれば、わざとそれを明確にせず、リアルタイムに戦略的に関与するレベルを決めることで、チームの緊張感を維持するCEOもいる。後者の場合、CEOの関わり方に一貫性がないとか、予測不可能と思われてしまう可能性があるが、自分がその立場になった場合を想像してみてほしい。誰しも、CEOが大局的なことから細かいことまで質問してくるかもしれないと警戒していたほうが、ミーティングの準備を徹底的にしようと思うのではないか。

決定を下す

 会社全体の業績目標の設定など、いくつかの事項については、CEOが主たる意思決定者となり、一連の提案を検討したうえで最終決定を下す場合がある。また、M&A案件や経営幹部の指名などでは、CEOが主要幹部や取締役など少人数のグループの意見を聞くこともある。

 一方、事業部門の戦略を策定する時などは、その部門の責任者などに決定を任せ、それを承認するだけのこともある。どのR&Dプロジェクトを継続すべきかを決めるような場合は、対象プロジェクトの理解を深めるためにCEOがどこかの段階で関与するが、技術的な専門知識が乏しい場合などは、R&D部門の責任者などに最終決定を委ねるケースも想定できる。

CEOの関与レベルを判断する時の検討事項

 CEOはさまざまな基準を用いて、どの意思決定にどのくらい直接関与するか判断する。その決定の戦略的重要性も、判断基準の一つだ。つまり、CEOの最優先課題にとって重要な決定か、会社の方向性やビジョンやミッションに長期的な影響を与える決定か、である。

 ハイレベルな戦略決定には、ほぼ必ずCEOが直接関与する。また、企業財務の健全性(収益、コスト、収益性など)に与える影響や、関連リスク(潜在的な損失、法的影響、会社の評判へのダメージなど)も、CEOが関与するレベルの判断基準になる。重要な資源(設備投資や人的資源)の配分や再配分を伴う決定も、CEOの監督を必要とすることがある。

 その決定が会社の中核的価値観や倫理に影響を与えるレベルが、判断材料になることもある。このような価値観に疑問を投げかけたり、再定義したりする可能性のある決定には、CEOが関与する必要性が高い。会社の将来の行動や方針の前例となるような決定も、CEOの関与が必要になることが多い。

 ある決定が、組織の複数の部門にまたがる場合や、社内の大きな反発や深刻な対立を招く可能性がある場合、CEOが強く関与して、最終決定を下すようにすべきだ。株主や大口顧客や規制当局など重要なステークホルダーに大きなインパクトを与える決定も、CEOが大きく関与する可能性がある。緊急の決定、とりわけ差し迫った課題に対応したり、チャンスを活かしたりする際の決定は、CEOが迅速に対処する必要があるだろう。

 CEOは、重要度の高い決定に関与することが多いが、定期的に、より小さな問題や低いレベルの決定に関与すると、組織にとってプラスになる場合もある。たとえば、設立間もない事業部門の戦略や幹部育成プログラムの設計など、トップレベルとはとてもいえない決定にCEOが関与すれば、その重要性を組織内に示唆できるだろう。こうした象徴的な関与は、CEOの関与が当然と見なされる案件と同じくらい重要な意味を持つ場合がある。

 CEOが直接関与するレベルを意識的に判断すべきなのは、意思決定だけではない。CEOは顧客や投資家、規制当局、メディアなどのステークホルダーと直接関わるタイミングも、戦略的に判断しなければならない。また上級管理職の採用プロセスで、CEO面接という形で直接関与することもあるだろう。取締役会の合間に、個々の取締役と一対一の対話を持つべきタイミングや頻度も判断しなければならない。CEOが直接関与するレベルについて正しい選択をすることは、CEOとして有効な役割を果たすカギとなる。

 CEOのポジションで重要なのは、すべての決定を下すことではなく、有効な決定が下される環境を整えることだ。CEOの役割を、意思決定プロセスに影響を与えることに留めれば、実際に決定を下すチームのエンパワーメントになり、アジリティ(敏捷性)を育み、組織を成功へと導ける。CEOは、次々と命令を出す独裁者ではなく、多くのパートをまとめて調和の取れた結果をもたらす指揮者に近い。それは、企業幹部がCEOという頂点に立った時に必要とされる思考の転換であり、多くのリーダーにとっても、組織にとっても、大きな変化をもたらすはずだ。


"The Myth of the CEO as Ultimate Decision Maker," HBR.org, September 13, 2023.