パーパスステートメントの自己診断に役立つ5つの基準
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サマリー:企業のパーパスステートメントは、ステークホルダーに求められているにもかかわらず、その多くが漠然としていたり、業績目標に偏っていたりする。そこで筆者は、その自己診断に役立つフレームワークを考案した。社会... もっと見る性、真実味、信憑性、受益者にとっての価値、魅力的かの5つの基準から、リーダーはそれが効果的かどうかを判断できる。 閉じる

パーパスステートメントの必要性

 現代の企業は、業種を問わず、投資家や顧客、従業員、そのほかの広範なステークホルダーからパーパスについての声明(ステートメント)を明示することが、よりいっそう求められている。パーパスとは、利益を最大化することに関わるものではなく、その企業が存在する理由そのものを示すものである。

 企業は、パーパスステートメントで、その企業が人類、社会、環境目標にどう貢献するつもりかをステークホルダーにはっきりと説明しなければならない。その内容には、信憑性があり、真実味があり、しかも人々を鼓舞する力が必要である。

 ところが、これまで筆者らが見てきたパーパスステートメントは、漠然としていたり、大風呂敷を広げていたり、わくわくしないものだったりするケースが非常に多い。たとえば、デルタ航空の「世界を上へ」、シスコシステムズの「すべての人のためにインクルーシブな未来の原動力になる」、スポーツ用品大手デカトロンの「人々の役に立つ」がそうだ。

 しっかりとつくり込まれたパーパスステートメントが企業にあることは重要だ。そのようなステートメントは、企業の大きな目標を描き出すだけでなく、自社の従業員に対して、自社が何を大切にしているかを伝える効果もある。それを適切につくることが、嘘偽りのないパーパスを組織に根付かせる最初の一歩にもなる。しかし、リーダーたちは往々にして、妥当性があり、しかも人々を鼓舞するものをつくることに苦労する。どれほどテーマを絞り込むか、どの程度大きなテーマを掲げるか、どのような言葉遣いで表現するかについて、準拠できる指針が存在しないためだ。

 筆者らは、世界の有力企業66社のパーパスステートメントを詳細に分析した。具体的には、ステートメントが明確かどうか、それがその企業の中核的なビジネスと密接に結びついているか、そして信憑性がどの程度あるかを検討した。筆者らは、それぞれの企業幹部と従業員に話を聞き、有効な表現方法についてのアドバイスを求めた。

 筆者らはこうした活動を通じて、うまくいく方法、うまくいかない方法についての理解を深め、それをもとに、リーダー向けの自己診断フレームワークを考案した。これによって、リーダは自社の状況に合わせた最適なパーパスステートメントをつくることができる。

SABREフレームワーク

 筆者らが提案するフレームワーク「SABRE」は、パーパスステートメントのコンテンツ(パーパスの意味)に関する4つの要素と、ステートメントの形式(声明の言葉遣い)に関する1つの要素で構成されている。リーダーは、このフレームワークに照らして、自社が現在掲げているものや、新たに採用する案をそれぞれ評価すればよい。

社会性がある(Societal)

 パーパスステートメントは例外なく、その企業が是正もしくは緩和することを目指す具体的な課題──人類、社会、環境に関わる問題──にはっきりと言及するものでなくてはならない。

 しかし、現実にはその点について漠然としか触れておらず、ひどい場合には言及していないケースがある。筆者らの調べたパーパスステートメントのうち68%が社会的な課題にまったく言及していなかった。また、企業業績や利益に関する目標を軸に、パーパスを表現しているケースもしばしば見受けられた。このようなステートメントは、その企業のミッションや目標を表現したものとは言えるかもしれないが、パーパスを表したものとはいえない。

 一方、社会的な利益を明確に示しているよい事例として、医療機器大手フィリップスを挙げることができる。

私たちフィリップスの目的は、有意義なイノベーションを通じて人々の健康とウェルビーイングを向上させることです。私たちは、2030年までに25億人の生活を改善することを目指しています。その中には、サービスが十分に行き届いていないコミュニティに属する4億人が含まれています。

 フィリップスおよび当社ブランドのライセンスを付与された企業は、テクノロジーカンパニーとして、「より健やかな未来へ」という一貫した信念の下で、人々のためにイノベーションを起こします。

 もし、自社の製品やサービスが、ソーシャルグッド(社会善)もしくはコモングッド(社会全体の共通善)をどう前進させるのかを具体的に示せない場合は、自社の事業活動のあり方に結びつけたパーパスを示すほうが現実的かもしれない。たとえば、食品小売り企業のアルディは、「あらゆることを公正かつ効率的に行い、顧客に価値と品質を提供する」というパーパスステートメントを掲げている。

真実味がある(Authentic)

 企業内部の従業員や顧客、投資家を含む外部のステークホルダーは、企業のパーパスステートメントがその真の意図を正確に、そして誠実に反映しているかを知りたいと考え、企業内外の情報を手掛かりにしてその評価を行う。企業が人々の健康を改善するというパーパスを掲げているにもかかわらず、たばこ製品を売り続けていれば、そのパーパスステートメントに真実味がないと判断するのだ。

 従業員は、真実味を欠いたパーパスステートメントにすぐに気づく。パーパスの内容と、自分たちが日々職場で経験している現実とに乖離があると感じれば、従業員は幻滅し、やる気を失い、会社を辞めてしまうことさえある。従業員を対象とした定期的な意識調査に、パーパスステートメントに関する質問項目を加えれば、リーダーは自社の問題点がどこにあるかを知ることができるだろう。

 顧客や投資家も、パーパスステートメントがその企業を誤って表現していると感じれば、悪い印象を抱く。そのような企業は「パーパスウォッシング」(パーパスの偽装)を行っているという批判を浴びるおそれがある。資産運用大手ブラックロックのパーパスに真実味があると世に受け入れられているのは、それが同社の実際の行動と合致しているからだ。「グローバルな投資運用会社であり、顧客のための受託者でもあるブラックロックは、すべての人が豊かな生活を送れるようにすることをパーパスとしています」と、同社は表明している。

 言うまでもないが、ある企業のパーパスステートメントの真実味に対する評価は、不変のものではない。ある時点で真実味があると受け入れられていたものが、ネガティブな報道をきっかけに、その評価が変わる場合もある。

 たとえば、自動車大手のフォルクスワーゲンは「よりよい未来のために持続可能性の高い自動車を提供する」と約束していた。しかし、2015年に、排ガス検査で不正を行っていたことが露見し、「グリーンウォッシングだ」と批判を受けた。この不正は「ディーゼルゲート」と呼ばれる大規模な企業スキャンダルに発展し、同社は巨額の罰金を科され、世界中の国々で信用を失った。

信憑性がある(Believable)

 一部の企業のパーパスステートメントは大風呂敷を広げていて、それを実践することが事実上、不可能な場合もある。筆者らが調べたステートメントの中に、まさにこの点で不合格にせざるをえないものも多くあった。「世界をよりよくする」といった漠然とした目標は、たしかに崇高なものかもしれないが、ステークホルダーは「どうやって」と疑わずにいられないだろう。

 最良のパーパスステートメントは、その企業が現実的に自社のリソースを用いて追求でき、しかもその達成状況を数値的に評価できることを明示している。たとえば、製薬大手アストラゼネカは「サイエンスの限界に挑戦し、患者さんの人生を変える医薬品を届ける」と掲げている。このステートメントは、信憑性が高いと判断してよいだろう。製薬会社が重要な新薬を開発するという内容は、人々がイメージしやすいものだからだ。