4つの要素の導入方法

 新しい組織モデルを採用する方法は、どの企業も、どの領域も同じだと考えるのは単純すぎる。状況によっては、階層型モデルが何百年ももたらしてきた利点とともに維持されることもある。また、より階層的ではないモデルが望ましいと思われる場合でも、代替モデルを導入する度合いはさまざまだ。自社の固有のケースに適したアプローチを設計するには、次の2つのステップを踏むとよいだろう。

1. どこに新しい組織モデルの導入を検討するかを決める。

2. どの程度深く実施するかを決め、最初のアクションを開始する。

どこに新しい組織モデルの導入を検討するかを決める

 時には、起業的な分権型アプローチがベストの選択肢ではない場合もある。ロケット、航空機、宇宙船に欠かせない複雑な技術部品、つまり入念に設計し、製造し、テストして不良率を極限まで下げた部品を製造している状況では、エンジニアに即興でモノをつくってほしくないだろう。詳細に規定されたチェックリストに従ってほしいものである。

 つまり、筆者らの発見を実行に移すための第一歩は、それをどこに導入することを検討すべきかを決めることである。最も有望な候補は、(a)新興テクノロジーの影響を最も受ける組織と、(b)起業活動レベルを高めることによって利益を得る組織である。以下の2つの質問で、優先すべき有力候補を特定できる。

1. テクノロジーの進歩によって、競争力を高める新たな組織制度がつくれるか。

2. 起業家性(新しいアプローチを試す、機敏に動くなど)は成功につながるか。

 以下のように、2×2のマトリックスで考えるとよいだろう。

 事業領域がマトリックス上のどの位置に当てはまるかによって、取り入れるアプローチを変えるべきである。

 左下の事業領域には、従来の集権型階層モデルを維持することが、おそらく最も理にかなっている。ミサイルや航空機の推進システムを製造するエンジニアがこの一例である。

 右下は、起業家性を奨励すべきだが、必ずしもテクノロジーを活用した変革が必要なわけではない。むしろ、報告体制、組織文化、ストーリーテリング、雇用といった従来の組織ツールに目を向けるべきである。

 左上のように、テクノロジーの恩恵はほしいが、起業家性はいま以上には必要ない、あるいは求めていないという場合には、デジタル製品の導入を勧める。たとえば、リクルーターがどの候補者に契約ボーナスを多く与えるべきかを決定するアルゴリズムを構築するなどである。

 右上は、新しい組織モデルを導入すべき機が最も熟している領域である。

 このマトリックスからわかるように、新しい組織的アプローチの試みが増えている理由として2つ考えられるのは、(a)新しいテクノロジーがマトリックスを上方に押し上げていることと、(b)多くのセクターで変化のペースが加速しているため、起業活動の必要性が高まっており、マトリックスを右方向に推し進めていることである。

どの程度深く実施するかを決め、最初のアクションを開始する

 どこに新しいアプローチを導入するかを決めたら、4つの要素を4つの段階に沿って導入することを検討する。

1. 社員を社内起業家のように扱う。

2. 大規模なユニットをMEに分割する。

3. 小規模チームの管理は、中央集権的にではなく、内部の需給に支援されるようにする(たとえば、本社ですべての予算を決めるのではなく、MEがみずから生み出した利益の一部を再投資できるようにするなど)。

4. これらの小規模チームに、どの本社部門(人事、IT、R&Dなど)と提携するかを自由に決めさせる。

 この最初のステップ、つまり社員を社内起業家のように扱うことは、チェンジマネジメントや風土改革の取り組みによって実施できる。そのような取り組みは容易ではないが、方法については、すでに多くのことが知られている。儀式や習慣、リーダーシップのミラーリング、ストーリーテリング、役職、表彰、オフィスデザイン、言語、シンボルなど、実績のある戦術を用いれば、集中的かつ協調的な取り組みによって、驚くほど短期間で組織文化を変えることができる。

 ステップ2(ユニットをMEに分解する)は、大きなユニットから小さなユニットを抜き出すために、報告体制を再考する必要があるため、複雑になる可能性がある。しかし、IT部門が「リーン」や「スクラム」アプローチをすでに採用しているなど、何らかの形で小規模チームベースのアプローチを導入している可能性は高い。そして、そうしたITチームが事業部とやりとりしていれば、少なくとも特定のプロジェクトに関しては、チームへの浸透も始まっている。プロダクトチームやマーケティングチームは、エアビーアンドビー、メタ・プラットフォームズ、ウーバーなどのテック企業によって広まった「グロースチーム」にすでに方向転換しているかもしれない。残されているのは、このようなプロジェクトチームを恒久的なチームの構造に進化させることである。

 ステップ3(小規模チームのマネジメントを市場に委ねる)では、予算編成プロセスや業績管理システムを整理して再設計し、組織文化やリーダーシップの行動を改革しなければならないため、さらに複雑なレイヤーが追加されることになる。これは大変な作業に思えるかもしれないが、最初のステップは比較的簡単だ。つまり、製品チームや顧客セグメントチームの個々の財務パフォーマンスを測定できるように、財務会計などの業務を調整することである。

 消費財など一部の業界では、すでにそのような仕組みが構築されている。ふだんから顧客セグメント(特定のブランド、特定のチャネル、特定の地域で購入する顧客)ごとに損益を出している。しかし、銀行のような他のセクターでは、少し整理が必要かもしれない。なぜなら、顧客別(富裕層、退職者など)ではなく、商品(住宅ローンやウェルスマネジメントなど)別に業績を割り出す傾向があるため、価値破壊が起こるような対立が生じる可能性があるからだ。ここでの第二段階は、再投資の分権化を開始し、チームがみずから創出した価値を多く保持できるようにすることである。

 最後のステップ4(どの本社部門と提携するかを決める自由を小規模チームに与える)では、組織の規範に深く切り込み、長い間基本的にユーティリティやコストセンターとして機能してきた部署を、起業家的なプロフィットセンターへと再設計する必要がある。それには、上記のステップ1、2、3をサポート部門に当てはめる必要がある。

 そのためには、まず、広範な風土変革の取り組みにサポート部門の社員を参加させると、彼らも社内起業家としての自覚を持ち始めるようになる。第2に、サポート部門をチーム構造に再編する。人事、財務、R&D、そしておそらくは法務などの多くは、すでに特定の事業チームをサポートするチームに編成されている可能性が高いため、それほど違和感は感じないかもしれない。たとえば、ある大手メディア企業の法務担当役員は、自分の管轄組織をそれぞれラジオ、テレビ、ストリーミングなどを専門にサポートするサブチームに分けている。第3に、財務報告を内容を調整し、チーム別の損益計算書を作成するようにする。

 このステップを検討している企業にとって最大の飛躍と思われるのは、事業部チームがどのサポートチームと提携するかを決定できるようにすることである。その結果、MEのトップは、よりよいサービスを求めて政治的な手段(たとえば、チームをサポートする弁護士を交代させるよう法務部長に依頼するなど)を使うのではなく、別のサポートチーム(この場合は別の法務チーム)に予算を使うことを選択する直接的な権限が与えられる。

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 いま注目されているテクノロジーは、企業の市場進出方法を一変させるだけでなく、企業の経営そのものを見直すことを迫っている。

 官僚制は、階層性、明確な権限、分業といった特徴を持ち、過去数世紀にわたって人間がまとまって活動するための支配的な制度であった。しかし、IoT、AI、データ分析、ブロックチェーン、多様な関連技術が定着するにつれて、より効率的な代替案として、よりオープンな新しいモデルが一部の分野で台頭しつつある。

 筆者らの調査によると、このようなオープンな構造の要素を取り入れている組織の多くは、起業活動をより高いレベルで実行し、優秀な人材の獲得と維持に優れており、その結果として優れた財務業績を上げている。筆者らはまた、適応しない組織は取り残される危険性があるとも考えている。

 たとえば、戦略ソートリーダーであるボストン コンサルティング グループ ヘンダーソン研究所所長のマーティン・リーブスは、テクノロジーが駆使されたデータ主導の新しい世界では、競争優位性は以前の約10倍の速さで失われるため、ゲームに遅れずについていくことが必須であると指摘している。また、未来研究者であるマーク・エスポジートは、新しいテクノロジーをまだ検討していない企業は、それらがユビキタスになっていることを認識する必要があり、それに対応しなければ取り残されることになると述べている。

 新しい組織モデルに進化することは容易なことではない。経営規範、プロセス、構造を学び直し、解体する必要がある。しかし、筆者らの研究によれば、全面的な変革に着手しなくても、そのメリットを実感し始めることはできる。真のチャンスは、新しいテクノロジーがもたらす組織化能力を受け入れ、新しいテクノロジーや非階層的モデルによって競争力が高まると判断できる領域に、より分権化されたモデルを選択的に導入することにある。


"Is Organizational Hierarchy Getting in the Way of Innovation?" HBR.org, September 12, 2023.