仕事の未来に備える3つの方法
Illustration by Alanah Sarginson
サマリー:近年、政治や経済、社会、環境の危機が進み、世の中が激変する中で「仕事の未来」に疑問が投げかけられている。デジタル化、働き方、従業員のウェルビーイング等、多面的な変化に対し、リーダーは注意を払い、適応す... もっと見るる必要がある。本稿では、仕事に変化をもたらしている要因を理解するために考慮すべき3つの重要な懸念事項を解説したうえで、仕事の未来を形づくるための3つのステップを紹介する。 閉じる

仕事に変化をもたらす要因を理解して対応する

 この数年間、政治、経済、社会、環境において時代を特徴づける危機が続いている。ビジネスの世界ではかつての常識の多くが疑問視され、以前には想像できなかった多くのことが、いまでは日常的な現実となっている。

 だが、激動はまだ終わりそうにない。ある世界的なコンサルティング会社に最近採用された社員は、筆者らにこう語った。「私たちは仕事人生における大変動の終わりではなく、始まりにいます」

 こうした激変は、仕事の未来についてさまざまな疑問を投げかけている。私たちはどこへ向かっているのか。未来はどうなるのか。リーダーはどのように備えればよいのか。

 組織を前進させる中で、リーダーは何を重視すべきなのか。デジタル化と、急速に発展するAI(人工知能)の能力だろうか。ハイブリッドワークへの移行に伴う数々の影響だろうか。それとも従業員のウェルビーイングだろうか。はたまたミレニアル世代と団塊世代における優先事項の変化だろうか。社会と環境への責任をめぐる問題や不安定な地政学的状況、そして不透明な経済見通しこそ、何より注視すべきものなのだろうか。

 互いに異なるが関連し合うこれら複数の問題を前に、リーダーが困惑するのも無理はない。「コロナ禍の期間を通して、この会社を団結させるために私ができることはすべてやりました」と、前述したコンサルティング会社のCEOは言う。「この先に待ち受けている課題がどれほど多いかを考えると、私にできることはもう何も残っていないと感じます」

 筆者らはリーダーシップ、持続可能性、組織変革を専門とする学者であり、近年ではこれらの課題にリーダーと組織が対処するための最善の方法に関心をそそいでいる。そして学術研究と専門的コンサルティングの両方を通じて、筆者らは次のことを学んだ。リーダーは、仕事に変化をもたらしている要因について理解し対応したいと望むなら、3つの重要な懸念事項について、より具体的に考え始める必要がある。すなわち、(1)労働者の未来、(2)働き方の未来、(3)仕事そのものの未来だ。

 言い換えれば、仕事をめぐるwho(人)、what(手段)、why(意義)である。

3つの懸念事項

 仕事において「人」「手段」「意義」は、深く結びついている。これらがどのように関連するのかを考えることは、未来を正確に予測する一助にまではならないものの、未来に備えるためには役立つ。それぞれを順番に考えていこう。

労働者の未来(人)

 コロナ禍に誘発された内省と、従来の枠組みを破壊したロックダウンの体験をきっかけに、多くの人々は人生における仕事の役割を問い直すようになった。自分は組織に何を求められているのかを深く自問し、この組織は自分が献身するに値するのかという疑問を抱いている。

 同時に、人々は仕事においてますます「ありのままの自分」でいる権利を求めるようになった。このためリーダーは、特に従業員のジェンダー、人種、宗教や性的志向などに関する事項に、以前よりもはるかに強く配慮するよう迫られている。

 とはいえ、個々人の多岐にわたるニーズへの対応を重視しすぎるリーダーは、大局を見失いかねない。仕事に関する従業員の疑問と懸念は、2つの強力な要因の衝突から生じる。一つは今日のマクロな社会経済の現実。もう一つは、組織に属して「よい」仕事をするとはどのようなことなのかに関する、長年の通念的な見方だ。仕事の未来に関する考察では必ず、この変わりゆく人々の状況と、それが働き方および働く意義にどう関連するのかを吟味しなければならない。

働き方の未来(手段)

 ハイブリッド、リモート、フレックスでの働き方が定着している。オフィスへの復帰を強制する試みが行われているにもかかわらず、リモートワークの割合はいまだにコロナ禍以前よりも4~5倍多い。こうした新たな働き方によって、人々が働く手段、場所、タイミングは根本的に変わるが、その影響についてはまだ十分に理解されていない。

 気が重くなるような不透明感が漂う中、リーダーは少しでも安心につながるという確実性をもたらすために、「標準化された」方針を打ち出さなくてはならないというプレッシャーを感じている。だが、現在の不安定なマクロ状況下では、働き方はこうあるべきという確信は、錯覚であり一時的なものにすぎないかもしれない。

 一方、デジタル化は人と機械の関わり方を急速に変化させており、人が遂行するタスク、果たすべき役割、および人々を導き支える組織構成に影響を及ぼしている。2030年代中頃までには、仕事の最大30%が自動化される可能性があり、今日のAI(人工知能)の急激な発展は、大方の予想よりもはるかに早く未来を現在に引き寄せた。急速に進化する技術システムがもたらす絶え間ない変化の中で、リーダーは仕事環境と従業員のタスクをどのように設計すればよいのだろうか。