仕事の未来(意義)
長期的なマクロ要因と短期的なショックを受け、私たちが新たなエネルギーのインフラ、人口の高齢化、温暖化と混乱が進む地球に適応していく中、産業界に多くの需要が生まれている。サプライチェーンの混乱はますます頻度を増している。政治的事象は、国民感情に急激な変化をもたらしている。人種的不平等、ロシアや中国とのビジネス関係に対する意識の変化などがその例だ。
これらのマクロ的変化と並行して、人々の欲求と行動も変わりつつあり、価値観や願望、人生の選択に関する違いは大きくなっている。
これに対応して一部のリーダーは、多様化する株主の期待と社会のニーズに応える方法を定義した新たなパーパスを宣言している。だが、長期的な視点を取り入れるこの試みは、短期的な不確実性に満ちている。社会におけるビジネスの役割を再定義する動きは、反発を招くからだ。私たちが文化的変化に対処し、「よいビジネスとはどのようなものか」、ひいては「よい仕事とは何によって構成されるのか」に関する新たな理解を形成し始める過程で、この反発が起こることが予想される。
私たちは自分が思っている以上に主体性を持っている
労働者、働く手段、働く意義に変化をもたらしている激動は、制御不能のように感じられる。この状態は、ある程度は続くだろう。たとえ変化の方向性が明らかだとしても、次の経営危機や人的危機がいつ、どこで生じるのか、それがテクノロジー、戦争、気候または社会不安によって引き起こされるのかは、誰も確実に予測できない。
主体性を取り戻すための第一歩は、この複雑なシステムにおける自分たちの役割を認識し、労働者、働き方、仕事そのものがどう絡み合っているのかに注目することだ。結局のところ、仕事の未来は「どこか向こう側」にあるものではない。それは私たちと組織の中に内在しているのだ。以下に概説するステップを通じて、同僚たちとともに未来を形づくることができる。
集団的リーダーシップで不確実性に対処する
複雑な環境問題や地政学的課題に対しては、局所的に行動しても限られた効果しかなく、解決のカギは集団行動にあることが一般的に知られている。複雑なシステムレベルの課題に単独で取り組む国家は、無力であり効果を上げられないが、組織のリーダーも同様だ。仕事の未来をめぐる課題に対処するには、それがリーダー個人の責任ではなく、組織全体の同僚たちとの複雑な連携を伴う集団的な責任であることを理解する必要がある。すなわち集団的リーダーシップは、仕事の未来の中核を成す要素だ。
本稿冒頭で挙げた、自分に「できることはもう何も残っていない」と感じているコンサルティング会社の疲れ果てたCEOを覚えているだろうか。彼は、組織における仕事の未来を形成することへの責任感によって、過剰な負担を抱えている。しかし、その責任は一人で負うべきではない。負担は集団で共有するものだ。
彼の仕事は、組織全体の全階層からリーダー人材を集めて問題に取り組み、集団的な洞察を広げ、従業員の感情面の不安を抑制することである。
集団的洞察を広げる
仕事の世界における現在の複雑な課題は、階層、世代、職能、地域の境を超えている。互いに利害が対立する複数のステークホルダーを結集させることでのみ、対処が可能となる。このような集団は集合的に幅広い洞察を生み出し、組織とリーダーが不確実性にうまく対処できるよう後押しすることができる。
当然だが、組織のトップにいる面々は短期的に失うものが最も多いため、未来に関する最も難しい問いを提起することに抵抗があるかもしれない。一方、最も若い従業員たちは、長期的に得るものが最も多い。彼らにとって、現状はほとんど価値がないからだ。このため、筆者らが協働する組織の多くは、経営陣の議論に新しく耳慣れない意見を取り込む方法を模索している。
感情面の不安を抑制する
リーダーは経営陣の取り組みを推進し維持するために、組織全体に働きかける必要があるが、何らかの「感情面のガードレール」を設けることも求められる。どのような時にも重要なリーダーの役割は、個々人の自律への欲求と、組織の統制欲求のバランスを取る最善の方法を見出すことだ。
若い人材は特に、自律性と仕事への情熱を追求する機会を欲するかもしれない。それでもなお、彼らは組織の集団的アイデンティティと、その中での自分の立場の正当性を信じることで得られる安心感を必要としている。リーダーは、組織の過去における最も優れた側面を従業員に再認識させ、自社の文化的アイデンティティを再確認することで、共通の未来を築くための強固な基盤を提供すべきである。
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結局のところ誰もが、自分よりも偉大で献身に値する何かに属したいと望んでいる。とはいえ、私たちが属する組織は変化を遂げ、私たち自身も変わった。
積み重なる難題に直面すると、そこから目を背けて「通常」のやり方を続けたくなるものだ。しかし、今日の仕事の世界がそうであるように、従来の「通常」の感覚がもはや適切ではない時には、起きている事象に対して考えを改める方法を学ばなくてはならない。
この困難かつ刺激的な変革期の意味を最終的に理解するには、不透明性と継続的な不確実性に抗うのではなく、むしろ受け入れて、新たな「通常」の感覚を自分たちでつくり出すほかにない。
これは、単独ではとうていできることではない。組織の中で集団的リーダーシップに注力することで、ともに着手できるのだ。
"3 Ways to Prepare for the Future of Work," HBR.org, September 28, 2023.