
新型コロナウイルスの感染拡大を通じて、私たちは「平時」の生活や行動から強制的に引き剥がされた。この変化は極めて大きな困難をもたらした一方で、平時にはできなかった発見や新しい経験をした人もいるだろう。本稿では、コロナ禍を乗り越えた時、個人と組織がコロナ以前に戻るのではなく、さらに強くなって戻るために有効な3つのステップを紹介する。
組織や個人にとって、コロナ禍は長引く試練の時を象徴している。それは文化人類学者が「境界体験」(liminal experience)と呼ぶものだ。
境界体験とは元来、部族の若いメンバーが大人になる準備として、肉体的、精神的限界の両方を試される文化的な通過儀礼を表す。これは組織内が大きな転換を迎える時にも応用できる概念であり、目下進行中の新型コロナウイルスのパンデミックにより引き起こされた転換にも当てはまる。
境界体験には、中核を成す特徴が3つある。
1つ目は、平時の生活や行動から強制的に長期間離れること、すなわち馴染み深い役割や仕組みから引き離され、物理的・感情的な困難に直面することだ。コロナ禍の中、私たちの多くがこれを経験した。
2つ目として、境界体験は慣れ親しんだ環境から長期間離れるものの、それにすっかり取って代わるわけではないという特徴がある。不安になるくらい平時と異なる半面、困惑するほど似ている部分もある。
組織およびそこに属する人々は、コロナ禍でも「平時のサービス」を提供し続けることができた。一方で、それを実現させるために通常とは大きく異なる手段を用いて協働した。同時に、従業員の職場と私生活の境界線は消えたも同然であった。
3つ目に、境界体験が終了したら、それを生き延びた者は以前とは別人になり戻ってくるという特徴がある。最終的にコロナ禍が終息して、試練の時が終わる時、我々も変わっているはずだ。
これは長期にわたって感じることになるであろう変化だが、その全貌は私たち自身にも理解し切れていない。そこで大きな問題が持ち上がる。私たちと、私たちの組織にとって、このような変化を最大限に活用するにはどうすべきなのか。