社会人学生の意外な「学割」活用法
ここで、MBA生に「意外に得をした経験がないか」を尋ねたところ、74.7%が「はい」と回答した。そのほとんどが学生割引の利用であった。MBA生は、社会人が多いものの、学生の身分をうまく利用している。
具体的には、美術館や映画館、カラオケ、レストランなどで学割を使っているケースが目立った。ほかにも、アップルやアマゾン・ドットコム、マイクロソフト、ユーチューブなどの製品・サービスの学生向け割引を活用している社会人も多くいた。
また、「新幹線の割引」という回答も少なくなかった。長距離の移動(編注:JRでは片道101キロ以上区間の乗車券が2割引になる)に活かして、交通費の負担を減らしていたのである。
忙しいMBA生はどう時間を捻出するのか
さて、今回のアンケート回答者の95%は社会人だ。ただでさえ仕事で忙しいのに、どのように学習時間を捻出しているのだろうか。
自由記述の回答からは大きく、仕事の効率化、通勤時間や休憩時間の利用、ファミリーマネジメントの3つの方法が浮かび上がってきた。
まず学習時間を確保するために、仕事の効率化に励む人が一定層いた。「仕事は何時までと決めてメリハリをつけている」(40代前半、課長職)というように、仕事を定時に終わらせることや、職場の飲み会を減らすことで時間を捻出していた。
さらに、不測の事態においても会社の協力を得られるように、「会社の上司や同僚に、残業できない曜日を公言する」(50代、部長職)や、「職場に『ビジネススクールに通っていること、この時間を大事にしたいこと』を公言し、仕事の残業を極力減らしている」(30代前半、課長職)と、職場との調整をきちんと行っているケースもあった。
通勤時間や昼食時間をうまく活用して学習に励む人々もいる。なかには「通勤時間にグリーン車を活用して勉強時間に充てる」(30代前半、係長・主任職)という人もいるほどだ。
MBAの取得を目指す学生は、仕事だけでなく、家庭の調整もおろそかにしない。「妻と2人で話をする時間を作り、お互いの話をする時間をつくるように努めた」(30代後半、課長職)、「子どもとの時間の確保と調整」(50歳以上、課長職)など、家庭のマネジメントを欠かさない回答も数多く寄せられた。
しかしながら、「子育てや仕事がある中で時間、体力、気力すべてのリソースの配分に非常に苦労している」(30代後半、一般社員)という本音もあり、「睡眠時間を削っている」(30代後半、係長・主任職)という人も少なくなかった。
多くの社会人学生が「本業」と「MBA」を両立しながら、「家庭」も大事にするという、極めて高度な調整能力が求められていることがわかる。それもあって、MBA修了時には、タイムマネジメントのスキルが大きく向上しているのだろう。
自己投資を欠かさず
音声・動画でさらなる学びを続ける
さらに、MBAの学費、教科書代以外の「学び」のための調査をしたところ、なんと9割を超える受講生が「自己投資をしている」と回答した(自己投資には、資格取得、語学学習、教科書以外での読書、セミナーなどを含める)。
「書籍」や「語学学習」など思考力を養うための学習から、自身の新たなキャリアを切り開くための「資格取得」や「講座受講」まで、学生の多くがMBA以外の学習に努めていた。その投資額は月1~5万円が53%を占めるものの、10万円以上を支出している人も10.8%いた。
また、学習者には、動画や音声メディアを活用して「耳」から学んでいる人も数多くいる。「動画や音声メディアのコンテンツを使って勉強することはあるか」の質問には、78%が「はい」と回答している。自宅にいる間においても、ほかの作業と並行しながら「ながら学習」に努めていることがわかる。実際に「耳を空けておくことすら惜しい」という声も上がっていた。
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今回の調査では、総じてMBAの学びについて肯定的な反応だったのは注目すべき点だろう。もちろん、学びの経験を否定することは難しいだろうが、それを差し引いても、全体として高い満足度だった。
たとえば、97%を超える受講生が、知人や後輩、子どもなど自身と近しい人に「MBA取得を薦めたい」と肯定的な回答を残している。なぜなら、回答者がスキルアップへの手応えを感じているほか、同じ志を持って学ぶ仲間との出会いに刺激を受けているためだ。実際、ビジネスパートナーを見つけて起業するケースも少なくない。
冒頭で紹介したJBCCは、ビジネススクールで学んだことを実践する場としてMBA生に支持されてきた。これまで5000人以上が参加し、ボランティアによる運営が続いてきたのも、学びの効果を高め、人と人とをつなげる場として機能してきたからだろう。ビジネスモデルの変革を求められる現代に、みずから主体的となって新たなキャリア、時代を築きたいという学生のニーズを満たしているのである。
時間やお金を投資して学ぶことで、個人のビジョンを明確にしていく。さらに、仲間に揉まれながら、みずから主体的になってキャリアを築いていく。キャリアは未定でも、ビジョンは明確。現代のMBA生には、そのような考えや姿勢がある。