結束力のあるチームをつくる
企業が大規模な変革イニシアティブを実行するために社内チームを編成したり、コンサルティング会社を迎えてその業務を依頼したりする場合、チームの全員が組織の価値観や信条、行動規範、社内のキーマンを熟知している。しかし、チームに社外の人が加わった場合、その人々は見知らぬ土地にいる観光客のようなものだ。どれほど十分な説明を受けたとしても、内部の人間と同じようにイニシアティブの背景を完全に理解することは期待できない。オンボーディング(プロジェクトの仕組みと企業文化の両方、さらにプロジェクトのステップ、役割、成果物、ツールなどをチームメンバーに知らせるもの)を徹底することにより、企業の価値観、信条、行動規範を伝えることができる。
遺伝子治療技術を開発するアスクレピオス・バイオファーマシューティカル(アスクバイオ)は、このことをよく理解している。2020年にバイエルに買収されたアスクバイオは、パーキンソン病やうっ血性心不全などの、将来性のある治療薬を数多く開発している。「統一されたチーム文化をつくることは、この上なく重要です」と、従業員800人を擁し、ノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パークを拠点とするアスクバイオのCFOであり、バイエルの米国事業のCFOでもあるグル・ラママーシーは語る。インフラとケイパビリティを急速に拡大する手段として、請負業者やコンサルタントを活用することは重要な要素であった。
特にバイエルによる買収以降は、「企業の勢いを維持することは業務の遂行に不可欠です」とラママーシーは言う。だが、急激な成長と変化の時期には、チームの重要な役割を担う従業員の採用には時間がかかるうえ、失敗することもある。採用した新しい従業員が会社や業務にマッチしないことが判明するのは3カ月ほど経ってからであり、後任者を再度教育するには6カ月から9カ月かかることもある。その間に、企業の要求や焦点が変わり、役割の要件も変わることがある。そこを外部のエキスパートで補うことによって、業務の柔軟性と敏捷性が高まる。
コロナ禍が始まって以来、アスクバイオのプロジェクトの15%から30%は、イニシアティブにもよるものの、社外から参加しているメンバーで構成されていた。「成功のカギは、自社の従業員とさまざまな外部業者から迎えるエキスパートをいかにうまく融合させるかにあります」とラママーシーは言う。ラママーシーは、請負業者やコンサルタント、そのうちリモートで仕事をしている人は特に、平等に重要なチームメンバーとして扱われなければならないと考えている。アスクバイオは、彼らに情報や社内ツールへのアクセスを提供し、混合チーム間でのコミュニケーションを可能にしている。
アスクバイオでは、イニシアティブが完了すると、社外のチームメンバーが会社の求人について尋ねてくることがよくある。ラママーシーは、このような声を聞くと、彼らがチーム内で部外者のように感じていなかったことがわかる。「これこそ、すべてのプロジェクト貢献者にしてほしい体験なのです」
仕事を取引ではなく、個人的なものにする
同じ会社の従業員のみで構成されるチームでは、メンバーは仕事以外の生活、熱中しているもの、家族、仕事の喜びや悩みなど、互いを個人的に知る機会がある。しかし、社外のメンバーにはそのような体験がない。また、社外メンバーが増えるにつれて、特に複数の重要なイニシアティブに関わっている場合、社内メンバーの気持ちは仕事から離れてしまう可能性がある。「人を数字やリソースとして見ることは簡単です」と、ある化学メーカーの最高戦略責任者は説明する。
リモートのチームメンバーは、個人的な人間関係を築くのがさらに難しい。数十億ドル規模の医療製品メーカーの財務担当役員は、リモートのチームメンバーを管理するのがいかに難しいかを語った。彼らが従業員でない場合は特にそうだが、他のビジネスユニット出身のメンバーであっても同様に難しいという。「彼らとの信頼関係、理解、関わりが欠けていると感じることがあります」
変革チームメンバーの間に信頼関係を築くことは、成功に不可欠だ。たとえば、修正が必要な間違いを指摘したチームメンバーに匿名性を約束しなければならないプロジェクトマネジャーのケースを考えてみよう。ある財務担当役員は、「発言権を与えることが必要です」と述べている。また、替えの効かないチームメンバーの福利厚生を確保することも、そのメンバーに変革イニシアティブの難局を乗り越えさせるためには必要かもしれない。この役員は、チームメンバーとの関係がぎくしゃくしているような場合には、プロジェクトリーダーがチームメンバーに個人的に会いに行くことを会社から奨励されていると語った。
あるアジア太平洋地域の財務担当者は、2020年以降、上海のチームメンバーがコロナによるロックダウンに巻き込まれるのを目の当たりにした。財務担当者の彼女は何度か、メンバーの家へ食料品を届けたり、精神的・身体的なケアを受けられるよう手配したりした。「そのような状況では、通常の高いパフォーマンスは期待できません」と彼女は調査員に語った。このような場合、プロジェクトリーダーは共感力を駆使してチームのモチベーションを高める必要がある。同社のプロジェクト(彼女は19のプロジェクトを担当していた)は長期にわたるため、チームメンバーのモチベーションと集中力を維持するのが難しい。優れた働きに対するボーナス支給などの評価も役立っていると彼女はいう。
プロジェクトリーダーの権限を強化する
筆者らが調査した企業の中で、重要な変革の遂行に最も成功している上位の企業は、下位の企業よりも優れたプロジェクトリーダーを抱え、そのリーダーに、チームに必要なスキルやそのスキル保持者を決定する権限を与える傾向が強かった。また、上位企業の約85%が、内部・外部を問わず、必要な時にチームメンバーを入れ替えることをリーダーに認めていたのに対し、下位の企業でプロジェクトマネジャーに同じ権限を与えていたのは、わずか70%だった。
医療品メーカーの幹部は、プロジェクトマネジャーに権限を与えることで、彼らが組織にとどまる可能性が高まると語った。「力のあるプロジェクトリーダーがいることは、企業に大きな競争優位をもたらします」と彼は言う。「やるべきプロジェクトは常にあり、プロジェクト遂行能力がなければ、競合他社に遅れをとってしまいます」
迅速に行動しなければ競争力を維持できないいま、変革イニシアティブの重要な役割に外部人材をアサインすることが現実的な選択肢になっている。しかし、内部人材も外部人材も、効果的で、結束力のある、意欲的で、協力的な、一つのチームとして管理されなければならない。映画のプロデューサーや監督は、その方法を知っている。ハリウッドから遠く離れた業界の企業でも、同様の手法を取っていく必要がある。
"Creating a Cohesive Team for Corporate Transformation Projects," HBR.org, September 29, 2023.