過度にネガティブなリーダーは有害な職場文化をつくる
Andrew Brookes/Getty Images
サマリー:日常的に発生する困難から最悪のシナリオばかりを描き出すリーダーは、チームに不安を広げるリスクがある。これは、行動科学者が「破局的思考」と呼ぶ思考の癖である。本稿では、人がなぜ悲惨な結果ばかりを想定して... もっと見るしまう傾向があるのかについて、心理学的および生理学的な理由に迫り、それに対処するいくつかの方法を紹介する。 閉じる

過度にネガティブなリーダーがチームに与える影響

 私はクライアントであるデレク(仮名)のオフィスを訪ねた時、明らかに不穏な空気が漂っているのを感じた。彼の組織へのインタビューで集めたフィードバックを確認するために訪問したのだが、誰の話し声も聞こえず、皆が下を向いて、心ここにあらずだった。数週間前に訪ねた時とは対照的だった。私はデレクのアシスタントの席に行って尋ねた。「大丈夫ですか。皆さん、ずいぶんと沈んでいるようですね」

「デレクは機嫌が悪くて、あなたが帰った後のことを考えると、皆、不安なのです。先ほども彼が部屋から出てきて、『倉庫に空き箱がないか確認してくれないか。後で必要になるかもしれないから』と言っていました」

「なぜ箱をほしがっているのですか」と私が聞くと、彼は言った。「フィードバックのせいで、自分がクビになると思っているのです」

 皮肉なことに、デレクへのフィードバックは改善を促すものというよりポジティブなものだった。上司や同僚、直属の部下は彼を高く評価しており、多くの強みと大きなポテンシャルを挙げていた。

 改善が求められた側面もいくつかあり、ある人の言葉を借りれば「ダークサイドに落ちる」傾向がとりわけ顕著だという。「最悪のシナリオがあれば、デレクは真っ先にそこに向かう」「最も単純な問題にも、世界の終わりであるかのように反応する人は初めて見た」といったコメントは、デレクがある状況に対して、それが実際に起こるかどうかにかかわらず悪い結果を想定する傾向がある点を指していた。これは行動科学者が「破局的思考」(catastrophizing)と呼ぶものだ。

 明らかにデレクは私とのミーティングに不安を感じていて、皆もそれに気づいていた。彼のように破局的思考に陥りやすい傾向は、珍しいものではない。ある研究によると、私たちの思考の最大70%はネガティブなもので、人によってはそうした思考が、たとえ根拠がなくても、とりわけ悲惨な結論を導き出すように駆り立てる。

破局的思考の起源

 日常的に発生する困難から最悪のシナリオを描く傾向がある人は、脳がそれを助長していることを知っておくと役に立つ。有名な著述家で、特定のトラウマを専門とするメンタルヘルス有資格者である専門家ジェイ・ストリンガーは次のように説明する。

 視床は脳の辺縁系にある部位で、すべての知覚を統合し、私たちの身の回りで起きていることを結論づける。そこから、感覚は扁桃体と前頭葉という2つの方向に伝えられ、私たちの認識に達する。扁桃体を煙感知機だと考えてみよう。24時間365日稼働して、入ってくる情報が私たちの生存と幸福に関連しているかどうかを常に検知する。迅速かつ自動的に作動し、潜在的な大惨事を常にチェックしているのだ。扁桃体が脅威──威嚇的に見える上司や、他の車と衝突する可能性など──を感じると、脳幹にメッセージを送り、ストレスホルモンを分泌させ、全身反応を準備させる。私たちがある出来事について理性的な思考をする前に、私たちの身体は潜在的な大惨事を軽減するための準備をしているのだ。

 ストリンガーによると、過去のトラウマ的な出来事は、差し迫った脅威を正確に評価する能力をゆがめかねない。危険を察知して身体の反応を整えるように設計された脳は、自分を守るように構築された優秀なシステムである。

 「しかし、過去にトラウマを負ったり有害な経験をしたりすると、海馬が8~12%縮小することが知られており、これは過去と現在の経験を区別する能力に悪影響を及ぼすだろう」とストリンガーは言う。「したがって、破局的思考を止めようと抗うよりも、あなたが頻繁に脅威を感じながら生きるように導いているかもしれない未解決のストーリーを理解することに努めよう」

 あなたの破局的思考が、他人を効果的にリードしたり、人生の喜びや満足感を味わったりする妨げになっているのなら、それに対処する手がかりをいくつか紹介しよう。