最悪の事態を想定するようになった経緯を振り返る。破局的思考に至るのは、無作為な選択ではない。学習された行動なのだ。自分が破局的思考をいつ、どのように学んだのかに注目してみよう。成長する過程で、差し迫った惨事を予想する能力を身につけた原点として、どのようなことがあったか。こうした話は、思い出すとつらいかもしれない。しかし、起こりそうにない惨事を予想することによって、自分がどのような欲求を満たしているのかを認識できれば、そのパターンを遮断する方法を考えられる。
ベストセラー作家で、ビジネス心理学者、経験豊富なエグゼクティブコーチでもあるシャロン・メルニック博士は次のように語る。「コントロール欲求が高い人、完璧主義の傾向がある人は、破局的思考の傾向がよく見られる。自分にとってよい結果を得ようと自分に大きなプレッシャーをかける一方で、もし結果が完璧ではなかった場合に、自分が非難されて、価値のない人間だと思われるのではないかと無意識に恐れているのだ」
実際、デレクは、完璧でないパフォーマンスをほとんど受け入れない非常に厳しい両親に育てられた。家事であれ、学校の成績であれ、スポーツであれ、両親の期待に応えられないと屈辱的な思いをさせられ、罰せられた。
私たちが一緒に仕事を始めてから数カ月後、彼は私にこんなふうに言った。「両親に愛されていることはわかっていました。両親のプレッシャーは、私がベストを尽くすための原動力だといつも思っていました。完璧でなければならないという思いや、要求に応えられないのではないかという不安、そして他人に対する非現実的な期待が、周囲の人々からの愛や賞賛を得たいという切実な欲求から来ているとは考えたこともありません」。デレクの破局的思考は、「完璧でなければ価値はない」と言われたトラウマを背景に、彼を最高のパフォーマンスへと駆り立てた。
デレクが思い出したエピソードの一つは、フットボールチームの先発選手だった高校時代に、中間試験の勉強をしていた時のことだ。疲労困憊していた彼は、ある試験の成績がBだったうえに、同じ週の試合でプレーオフ進出を決める最後のパスを取り損ねた。両親は彼を遠ざけ、彼はその年のクリスマスにプレゼントをもらえなかった。
デレクにとって否定的なフィードバックが逃走反応を引き起こすのも無理はない。私が彼に伝えたフィードバックもまさに、今回の場合は上司から、また自身が遠ざけられるのではないかと予期させたのだ。
誤ったデータを吟味する方法を用意する。破局的思考のペースを遅らせる方法の一つは、自身の絶望的な予感を証明するために集めているデータを吟味することだ。最悪の事態が起こるだろうとあなたに語りかける合図として、どのようなことに意識が向いているだろうか。たびたび惨事を予感させるような状況、人、または問題が何かあるだろうか。私の場合、誰かがメールやメッセージの返信にいつもより時間がかかると、その人間関係が破綻していると思い込んでいた。
自分の中でつくりだした惨事ではなく、本当は何を避けているのかを掘り下げてみよう。たとえば、難しい決断を避けたくて、あるいは自分が何かを知らないということが明らかになるのを恐れて、ありとあらゆる悲劇を想像するリーダーもいる。これは考えすぎて行動に移せなくなる「分析麻痺」の一つだ。そこで、「もしこうなったら、私は……」というシナリオを強制的につくり、対応の選択肢を増やそう。
メルニックは次のように語る。「破局的思考の下降スパイラルの初期段階、つまり破局的思考に最初に気がついたときに、頭の中で現実にそうなると思い込む前にその思考を認識する。その際、自分がずっと考えている結果だけでなく、想定しうるあらゆる結果を書き出しておく」
これは破局的思考の最終段階で、特に重要になる。破局的思考に陥る人の多くは、予想していた惨事が現実にならないと多少の安堵を覚えるが、同じ瞬間に、「まだ何か起きるかもしれない」と考える。
しかし、実際の結果と予想した結果を比べてみることが重要だ。あなたが見逃した、何かが起こることを示す合図があっただろうか。あなたはどのような好ましい結果の兆候を無視しがちであるか。このような事後分析を行うと、最悪の事態を考えたくなるような状況を前もって知るために役立つ、幅広いパターンライブラリーを構築できる。