1. 顧客との対話を増やし洞察を深める
企業が新たな選択肢を効率的に創出するためには、顧客情報をうまく活用するアプローチが重要だ。顧客との対話は一つひとつがユニークなものであり、そこから得られる情報を把握・分析し、得られた教訓を企業の探索プロセスにフィードバックできるような形でオペレーションを組み立てる必要がある。デジタルツールを使って顧客との通話を記録、分析、解析、エンコードする取り組みも、その一例だ。
企業は、顧客の行動(何を購入するか)だけでなく、彼らの検索活動(〈それ以外に〉何を購入したいか)からも学ぶことができる。このアプローチをうまく活用しているのが、クラウドベースのモニタリングおよび分析プラットフォームを提供するデータドッグだ。同社はオープンソースモデルに従い、ユーザーコミュニティからのコード提供を歓迎している。そうすることで、ユーザーコミュニティは彼らの顧客が対処すべき課題をデータドッグに伝え、開発努力を促している。
2. 顧客による検索を収益化する
顧客は単に消費するだけでなく、新しいものを探してもいる。顧客の検索プロセスに絡んでいくことで、企業も顧客の「旅」の形成に加わり、より多くの商品を顧客に提供できる。その手段として、大半のEコマースプラットフォームが活用するのが、「おすすめ」の表示、つまり「これも一緒に着よう」や「他の人が気に入ったもの」のタブである。
もう一つの強力なアプローチは、顧客の探索の旅そのものを収益化することだ。たとえば、スポティファイは、聞きたいと思う既知の曲に即座にアクセスできることだけでなく、好みに合いそうな新たなアーティストやアルバムを発見できることも、音楽ストリーミングサービスの価値だと気づいた。パーソナライズされたプレイリストである「ディスカバー・ウィークリー」機能は、スポティファイのカタログで検索をする何百万人ものユーザーから収集されたデータを活用し、個々のユーザーが気に入りそうな曲を予測する。この機能は音楽カタログの幅広さやアプリの信頼性、音質といったものよりも他社が真似しにくい特徴であり、スポティファイにユニークで収益化できる競争上の優位性をもたらしている。
3. 商品を個別化する
顧客の行動や検索プロセスから得られる情報を活用することで、企業は顧客それぞれの個別ニーズに応えやすくなる。
たとえば、オーダーメイドスーツのインドチノは、デジタル時代に合わせてビジネスモデルをアップデートした。オンラインショップでは、ユーザーがスーツやシャツをデザインし、カットや生地を選んで自分のサイズに合わせることが可能だ。このやり方なら、ユーザーは幅広い品揃えから選択できる一方、インドチノは売れないデザインに先行投資をする必要がない。つまり、効率的に選択肢を増やせるのである。
カスタマイズをさらに進めた例として、ロブロックスなどの企業は、ユーザーがほしい製品をみずからつくるためのツールをプラットフォーム上で提供している。ロブロックスは、どのような体験が最も魅力的かを推測する代わりに、ユーザーにとっての開発のしやすさを最大化することに注力している。そのため、ユーザーは理想のゲームをつくれるだけでなく、他のユーザーの創作に刺激を与える(そして刺激を受ける)こともできる。この好循環のおかげで、同社は規模を拡大。2020年には米国の16歳以下の子どもの半数以上がこのプラットフォームで遊んだことがあり、現在では1日のアクティブユーザー数が6500万人以上に達している。
4. 探索と実行を統合する
最後に、企業は組織全体の知識の流れを改善し、新たな製品の市場への投入スピードを高めるために、社内での探索と実行のプロセスを統合すべきだ。
その一つとして、日々のオペレーションからの知見をR&Dプロセスに組み込むことが挙げられる。緊密なフィードバックループが効果を発揮した一例がスラックである。
スラックは当初、ビデオゲームの開発者たちがチーム内のコミュニケーションを改善するために立ち上げたサイドプロジェクトだった。彼らはこのツールのユーザーであり、クリエイターでもあったため、どの機能が最も効果的で、どうすればこのソフトウェアをさらに改善できるのかをすぐに理解できた。開発していたゲームは失敗に終わったが、その際、同社は他のチームの生産性向上にも役立つ有益なものがスラック内に構築されていることに気がついた。
他方、これは実行のプロセスに探索の要素を組み込むことを意味する。たとえば、ウェブページのデザイン改良のためにA/Bテストを活用したり(ネットフリックスやブッキング・ドットコム)、ユーザーからフィードバックを得る目的で新しいソリューションを早期に提供したり、といった手法である。チャットGPTのみごとなローンチを思い返してみよう。チャットGPTが無料で提供されたのは、人々の興味を掻き立てるためだけでなく、ユーザーとのインタラクションに基づいて技術改良を重ねるためでもあった。
* * *
激変する不確実性の時代を進んでいくうえで、オペレーションは今後も競争優位性を築くに当たって重要な要素であり続ける。ただし、その際には、新たな方法、つまり戦略的な選択肢を効率よく創造することが求められる。
これは、「考えたうえで実行する」モデルから、「考えながら実行する」モデルへの移行を意味する。戦略策定とそのオペレーションは今後、これまで以上に緊密に絡み合うようになる。戦略を成功させるにはオペレーションのデータに基づいて常に調整し続けることが必要であり、戦略的意図をサポートする新たなオペレーション能力が定期的に台頭するだろう。
"Operations in an Era of Radical Uncertainty," HBR.org, Oct. 2, 2023.